淡白少年、旋回少女






「伊賀ー!お前の幼馴染、なんとかしてくれよー!」

「何が?」

「あんな思わせぶりな態度見せてたらさー、俺のこと好きかもって思うじゃん!!
で、いざ軽く付き合っちゃう?とか言ったらまっさかーって爆笑ですよ!ひどい!!」

「あー、なるほどね。」





クラスメイトが泣きつくようにしながら、俺の幼馴染、を指差す。
その指の先では、クラスの男子と楽しそうに話している彼女の姿。
今のような状況はよくあることで、俺はクラスメイトに声をかけながら軽くため息を漏らす。





「あれも!今話してるあいつもそのうち勘違いするぜ!いい加減を止めてくれよ〜!」

「いや、俺に言われてもなー。」

「なんだかんだでお前を一番頼りにしてる気がするんだよな。だからきっと止められる!」

「止めるったって恋愛は自由だし。」

「お前がそんな淡白なことでどうする!俺みたいな悲しい男をこれ以上増やさないでくれ!」





が男子に人気があることは知っているし、もそれを知ってか知らずか、気兼ねすることなく誰とでも話す。
そんな彼女に告白する奴らも多いのだけれど、今のところが誰かと付き合う気配はないみたいだ。










「伊賀〜!私また告白されちゃった!」

「ああ、聞いた。本人から。」

「えー、また?ちょっとは私から聞いたときにびっくりしてよー。」

「その辺は仕方ないだろ。」





に振られた男子から、泣きつかれるのも日常茶飯事。
さらに自身から告白の報告を受けるのも日常茶飯事だ。
なぜ皆俺に相談するのかは疑問だけれど、とりあえず話されたからにはちゃんと聞くことにしてる。





「・・・で、どう思った?」

「何が?」

「告白されたこと。」

「いつものことだなあと。」

「そうじゃなくて!なんか、ほら、こう・・・」

「?なに?本当はあいつと付き合いたかったとか?」

「ちがーう!もういいよ!」





はそう言うと、顔を背けて何も喋らなくなってしまった。
怒らせた理由がいまいちわからないけれど、彼女が気分屋なことも知っているから。
俺はそれ以上とくに何も言うことなく、そのまま彼女の隣を歩く。





「・・・伊賀。」

「何?」

「いが。いが。いーが!」

「だから何?」

「ひっとよっしくーん!」

「はいはい、何だよ。」

「聞こえてる?」

「聞こえてるよ。」

「私、ずっとずーっと呼んでるんだけど。」





不満そうな顔で俺をまっすぐに見上げる。
は確かに気分屋だけど、どうやら今名前を呼ばれたことに対するものではないようで。





「・・・伊賀は鋭そうに見えて、鈍感なとこあるよね!」

「え?」

「私、告白されたんだよ!」

「え、あ、うん。」

「何か思うところはないのかね?」





不満そうな顔はそのままに、けれど気恥ずかしそうに真っ赤になっていく。
・・・何か思うところはって・・・え?





「やきもちくらい、妬いてくれてもいいじゃん!」





・・・いや、いやいやいや。
俺だって最初はそういうことを考えなかったわけじゃない。

だけど、中学に入った頃から男子に人気が出始めて、
告白されたんだって笑顔で毎回俺に報告してきて。
俺よりもクラスの男子と話すほうが多くなっていって。

こうして一緒に帰りはするけれど、にとって俺は恋愛対象じゃないんだって、そう思って・・・





「・・・だ、だってお前、他の男子との方がよく話してるだろ?!」

「別によくは話してない!話しかけられて話してるだけだし・・・!
そ、それに・・・伊賀が・・・私のこと全然気にしてないみたいだったから・・・その・・・」





真っ赤になって口ごもるをぽかんとした表情で見ていた。
・・・なんだそれ。なんて、なんて・・・





「ややこしい。」

「やっ・・・ややこしくないよ!なんでこういうのがわからないかなーもー!」

「お前が面倒なことするから、話がややこしくなったんだろ?」

「・・・うっ・・・」

「はじめから正直に言えばいいのに。」





そうしたら、俺はもっと早くに彼女を意識しだして。
こみあげる感情を押さえ込めることもせず、その感情の答えにだってたどり着いていたかもしれない。





「え、じゃあ・・・その、伊賀も・・・同じ?」

「・・・うーん。多分。」

「多分って何?!」

「急に言われたって、こっちにも気持ちの整理ってもんがあるんだよ。」

「むーかーつーくー!」





自分は対象外なのだと思っていたら、恋愛という考えは自然と外そうとするだろ。
たとえ本心がどうあれ、考えないようにするだろ?
その考えがいきなり覆されたら、誰だって混乱するに決まってる。

そりゃ、彼女が可愛いかと聞かれたら、可愛いと思うし、好きかと聞かれたら好きだ。
一緒にいたいかと聞かれたら、当然そうだと答える。



まあ、答えは一目瞭然かもしれないけど。





でも、答えを待たされて慌てる彼女も可愛いだなんて思ってしまったから。
そうだな、もう少しだけ焦らしてみようか。






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