冷静少年、情熱少女 「ま、ままま、柾輝!」 「何?ていうか、普通に呼べよ。」 柾輝と出会い、友達という関係になってからはや数年。 家が近いこともあって、帰りはよく一緒に帰るし、 サッカーの試合だって応援しにいくし、休みの日は一緒に遊んだりもする(というか家に押しかける) 私以外で女の子の友達を家に呼んだなんて話も聞かないし、 今、彼の一番近くにいる女の子はきっと私のはずだ。 けれど、それはあくまで友達として。 これだけ一緒にいても、話があっても、私は柾輝の彼女ではない。 「ちょっと待って、今日は覚悟決めてきたから。」 「なんのだよ。」 柾輝はいい奴だし、落ち着いてるし、料理もできるし、面倒見もいいし。 中学に入ってからは女の子にモテだしたことだって知っている。 そういうところを自分から見せようともしないところがまた小憎らしいのだけれど。 「まずは深呼吸からね、待ってて!」 「・・・。」 柾輝とは、友達。きっと彼はずっとそう思っていることだろう。 けれど私は違うのだ。それこそ彼と友達と呼び合えるようになった頃から。 はじめは愛だとか、恋だとか、よくわからなかった。 一緒にいると落ち着くし、楽しくて時間はあっという間に過ぎていって。 それだけでいいと思ってた。 だけど、やがて知る。 柾輝と話す女の子にやきもちを妬く自分がいた。 一緒にいられなくて、がっかりする自分がいた。 一緒にいるだけでは、一緒に騒いで楽しんでいるだけでは、物足りないこと。 「柾輝!」 「だから何?」 「わたし、わたしね・・・!あのね・・・!」 けれどずっと言葉に出来なくて、ずっと友達のままだった。 どんなに思いを募らせようと、言葉にしなければ、伝わらなければ意味などないのだ。 だから私は決心した。この関係をかえようと。 もしかしたら柾輝はまだ恋愛に興味なんてないのかもしれない。 私の気持ちを伝えても、迷惑なだけなのかもしれない。 自分勝手でごめん。 だけど、どんな結果でも、柾輝なら受け止めてくれるんじゃないかってそう思ってる。 そして、私自身も受け止められるってそう思ってる。 「柾輝のこと・・・」 ピンポーン 「・・・。」 「なんだ?誰だろ?悪い、ちょっと行ってくるわ。」 柾輝が表情ひとつ変えず、部屋から出て行った。 私はその場にうなだれ、近くにあったベッドに顔を埋めた。 邪魔が入ってほしくなかったから、柾輝の家に押しかけたのに。 家の人は誰もいないって聞いてたから、気持ちを伝えるチャンスだと思ってたのに。 なんなのあの間抜けな音は・・・!空気読んでよもう・・・! 「宅急便だった。ついでに飲み物も持ってきたけど飲むか?」 「・・・飲む。」 あー、宅急便ですか。そりゃあね、それが仕事だもんね。 品物が届かなかったら大変なことになるもんね。 「何落ち込んでんだ?」 「なんでもない・・・。」 「で、さっきの続きは?」 「・・・気力がそがれた・・・。」 インターホンひとつでそがれてしまう気力だったのかって思うけど、 だけど、タイミングって大事でしょ?雰囲気って大事でしょ? あんなに気合いれたのに、どうしてこうなっちゃうんだろう。 「ペットボトル貸して。冷蔵庫にしまってくるよ。 あとそっちのコップは洗ってくる。台所借りるね。」 「俺やるけど?」 「いいの、動きたい気分。」 「ふーん・・・。」 ゆっくりと立ち上がり、お盆にコップやペットボトルを乗せて 部屋のドアを開ける。 「。」 「ん?」 「俺も言いたいことあるんだけど。」 「え?!っと、うわっ!」 「!」 自分の言いたいことが、柾輝への告白だったから、 思わず焦ってお盆ごと落としそうになってしまった。 とっさに柾輝が私の体ごと、お盆が落ちないように支えた。 「セーフ。」 「・・・ご、ごめん。」 言いたいことがあるからって、私と同じ目的なわけないじゃない。 変に期待して、焦って、バカみたいだ。恥ずかしい。・・・て、あれ? 「・・・柾輝?」 「何?」 「もうお盆、落っこちないよ。」 「知ってる。」 先ほど支えてくれた柾輝の腕が、体が、私を包んだままだ。 先ほど落としそうになったお盆はもう、安定して私の手の中にあるのに。 ドキドキする。 自分の鼓動が聞こえるくらいに。 柾輝の腕が私を包んでいて。 見上げればすぐそこに、柾輝の顔があって。 「好きだよ、柾輝。」 「俺も。」 さっきまでタイミングだとか、雰囲気だとか、そんなことばかり考えていたのに。 私はただただ自然に、流れるように、その言葉を口にしていた。 「言いたいことってそれ?」 「うん、柾輝は?」 「同じく。」 「二人して同じこと考えてたんだね。」 「そうだな、の慌てぶりは見てて面白かったけど。」 「一言多い!」 お互いタイミングを見計らっていたことを知り、笑いがこぼれる。 「じゃあ、うん、そんな感じでこれからもよろしく。」 「こちらこそ。」 なんだか照れくさくて、うまく言葉が出てこなくて、それでもやっぱり嬉しくて。 目の前の柾輝の顔が少しだけ赤くなっていることは、見ないフリをしてあげよう。 だって私はきっと、もっと真っ赤になっているだろうから。 明日にはまた、いつもどおりの私たちに戻っているのかもしれない。 けれど、それでいいんだと思う。今までどおりでいい。ゆっくりでいい。 私たち自身が気づいていなかったように、変わらないようで、少しずつ変わるものもあるはずだから。 TOP |