俺様少年、従順少女










、飲み物。」

「ちょっと亮、いかにも当たり前って顔で手出さないでよ。
私だっていつまでも亮の言うこと聞くと思ったら大間違いなんだからね!」

「はいはい、ご苦労。」

「・・・って、何でお茶渡してるかなー私!」

「ばかだから。」

「ばかは亮でしょー!」





我関せずといった顔で、私が無意識に差し出してしまったお茶を飲みながら
雑誌を読みふけっている目の前の男、三上亮。
彼とは昔から家族ぐるみの付き合いで、いわゆる幼馴染という関係だ。

私は昔から人見知りがひどくて、いつも亮の影に隠れているような子供だった。
同い年だったけれど亮のことは兄のように思っていて、
あの頃は亮が世界のすべてだったんじゃないかってくらいに大好きだった。
だから亮の言葉は絶対だったし、彼の言うことは何でも聞いていた。





「お前最近反抗的だな?昔の可愛かったお前はどこに行ったんだよ。」

「私だっていつまでも子供じゃないんだからね!
可愛がってるふりしてパシリにしてるだけの亮の言うことなんて聞かないよ!」

「可愛がってるふりってひでえな。ちゃんと可愛がって遊んでやったじゃねえかよ。」

「そう・・・あの頃は遊んでもらってると思ってた。
でもよく考えたらいじめてからかってるだけだったよね?!
アスレチックに置き去りにしたり、プロレスごっこと称して訳のわからない技かけたり!」

「あー、お前何しても笑顔で俺に寄ってくるんだもんなー。あれはちょっと怖かった。」

「純粋な子供心を踏みにじるとは何事よ!」

「俺も同い年だったんですけど。」

「亮はひねくれた子供だよ!純粋とは程遠い。」

「うわあ、何それショック。で、、それ。」

「え?あ、はい。」

「・・・。」

「・・・・・・いやああ!!何で取っちゃうかなもー!!」





しかし成長してくるにつれて、何かがおかしいことに気づく。
兄のような存在だった亮が、私が困っているのを見て嬉しそうに笑っていることにも。

気づいたときには時既に遅し。私は立派な亮専属のパシリと化してしまっていたのだ。
現在必死で交戦中。けれど小さい頃からの刷り込みがそう簡単に消えるはずもなく。





「そうか!亮から離れればいいんだ!この体質が抜けるまで!」

「ほー。」

「というわけで亮、少しは自分のことは自分でするようになりなさいよね!
そして次に会うときは生まれ変わった私を見るがいいわ!」

「それはそれとして、母親がお前のためにアイス用意してたみたいだけど?」

「え?おばさんが?!」

「残していったらがっかりすんだろうなー。」

「・・・っ・・・た、食べるよ!」

「冷凍庫。」

「知ってる!」





せっかくいい案だと意気込んだのに、いきなり出端をくじかれる。
私が亮を知っているように、亮もまた私を知っている。
だからこういう意地悪だってしょっちゅうなんだ。





「ご苦労。」

「ついでだもん、ついで!」





私用と言われたアイスは、私が好きな甘いアイス。
その隣においてあったのは、亮でも食べれるような甘さ控えめのシャーベット。
並べておかれてあるのもいつものこと。そしてそれを私が亮の部屋まで運ぶのもいつものこと。





「ん。」

「・・・おばさんに免じて。」

「強情だな、お前も。」





言葉に出さずとも、彼がほしいものがわかるのは今までの経験から。
コップにお茶をつぎたして、ついでに気温とアイスの温度差でついた水滴をふき取った。





「お前さ、」

「何?」

「さっき言ってたの、無理だろ。」

「さっき?」

「体質が抜けるまで俺から離れる?」

「無理じゃないよ!体質は改善できるものです!」

「そっちじゃなくて。まあ、そっちも無理だろうけど。」





言葉は続けながら、テーブルの向かい側に座っていた亮は
いつのまにか私のすぐ隣に腰を下ろした。





「俺から離れるなんて無理だっつってんだけど。」

「なっ・・・!無理じゃないってば!」

「じゃあ何で今日、俺んちにいるわけ?」

「それは呼ばれたから・・・って、はっ!」

「そうそう、呼ばれたら来ちゃうんだよお前は。」

「つ、次は行かないもん!ていうか、近い!何でだんだん近寄ってくるの?!」





亮の顔が少しずつ、少しずつ近づいてくる。
意地悪く浮かべた笑みは、私が戸惑っているのを楽しんでいるようで。





「来るだろ、お前は。」

「い、行かないってば!」

「いや、絶対来る。」

「何よその自信は!」

「だってお前、俺のこと好きだろ。」

「!!」





あまりにも当たり前って顔で言うから、思わず言葉を失ってしまった。
一体なんなのこの男は・・・!何がどうして自信もってそんなことが言えるの?!





「す、好きなんかじゃないよ!」

「ほー。」

「だから亮とはしばらく会わないもん!」

「へー。」

「ほ、本気なんだからね!」

「ま、それでも関係ねえけどな。」

「・・・え?」





突然温もりに包まれて、一瞬何が起こったのかよくわからなかった。
直後、耳元に届く低い声。







「俺が逃がさないから。」







顔は見えないけれど、声でわかる。
いつも仏頂面の方が多いくせに、こういうときはすごくいい笑顔を浮かべてるんだ。
私が戸惑っているのを見越してみせる、満足そうな顔。

どうせ便利なパシリがいなくなるとか、手軽にいじめられる奴がいなくなるとか、
そんなことしか思っていないんだろうって、そう思うのに。

言葉が出てこない。
その腕を振り払うことができないのは、なぜだろうか。





この感情も彼の行動も、本当の意味を知ることになるのは、もう少し先の話。







TOP