必死少女、傍観少女 「いくよ、みゆき!」 「う、うん・・・!」 ここは2年の教室が並ぶ廊下。 曲がり角に身を隠し、目的の人がこちらにやってくるのを確認する。 「風祭先輩!これ受け取ってください!」 みゆきが決死の思いで差し出したプレゼントには、何の反応も返ってこない。 後ろから彼女の服が軽く引っ張られ、みゆきが顔をあげる。 「風祭先輩、教室に戻っちゃった。忘れ物したみたい。」 「ええー・・・私、すごく勇気出したのにー・・・」 「うんうん、みゆきは頑張った!ここまで連れてくるのに一体何週間かかったことやら。」 「だ、だってなかなか決心がつかないんだもん・・・」 みゆきとは小学校から、とは中学校からの友達だ。 明るくサバサバした性格のとは、同じクラスになってすぐに仲良くなった。 私と話すうちにみゆきとも仲良くなり、いつの間にか二人は自分たちの恋の相談もするようになった。 「アンタたち何回同じこと繰り返してるわけ?」 「「しーちゃん!」」 「みゆきは同じ学校なんだし、周りにはバレバレなんだからプレゼントでも何でも渡せばいいのに。」 「だーよーねー。みゆきには思い切りが足りないね!」 「だ、だってー・・・」 「それでの方は?風祭先輩のお兄さん。」 「だからみゆきと風祭先輩がつきあってくれれば、私も自然な感じで功さんに紹介してもらえるのにー!」 みゆきが風祭先輩を好きなように、にも好きな人がいる。 それは風祭先輩のお兄さんだ。 「私は年上すぎて対象外な感じだけどなー。まあ確かに顔はいいよねあの人。」 「でしょ?!だよね!しかも優しいし大人だし!あー、知りたいことたくさんあるよ!」 保護者面談か何かで学校に来ていたお兄さんに、荷物運びで困っていたところを助けてもらったそうだ。 私も一緒に見たけれど、確かにすごくカッコいい人だったと思う。 ただ、やっぱり大人すぎて憧れはしても好きになることなんてなかったんだけれど。 「だからみゆき、はやく風祭先輩を落としちゃってよ!」 「落とすって・・・か、風祭先輩は私のことなんか・・・」 「私のことなんかじゃない!アンタ可愛い顔してるんだから、告白されたら悪い気はしないよ!」 「で、でも・・・!」 「せめて仲良くなって!そして功さんに私を紹介して・・・!」 「、アンタ正直すぎ・・・。」 元々考え方が後ろ向きなみゆきと、前向きな。 正反対な二人を見ていると、ため息も出るけれどなんだか面白くも思える。なんて二人に言ったら怒られそうだけど。 「あれ・・・待てよ。私が風祭先輩と仲良くなればいいんじゃ・・・」 「え?ええ?ちゃん?!」 「そうか、それで先輩の家に行って功さんに会って・・・いや、でも風祭先輩の彼女だと思われたらどうしよう・・・それは嫌だ・・・」 「嫌って何?!風祭先輩はすごく素敵なんだからね・・・!」 「アンタたち少し落ち着けば?」 やり取りに笑いをこらえながら、こうして二人をなだめるのも日常茶飯事だ。 まあそれは楽しいからいいんだけど。 そんなことを考えながら、私は昨日偶然職員室で聞いた話を思い出した。 「そういえばさー、今度2年生の保護者面談があるらしいよ。」 「ええ?!」 「職員室で先生たちが話してるの聞いたんだ。」 「ちょ、しーちゃん!なんでそれを早く言わないの?!」 「忘れてた。」 「この正直者!でもいいわ、そうしたら功さんも来るってことよね?そうよね?」 「さあ。」 「見てなさいみゆき!そうだ、私が功さんと仲良くなって風祭先輩にみゆきを紹介してあげる!今度はそっちの作戦でいこう!」 「作戦って・・・」 「ほ、本当に・・・?!」 「任せとけ!」 「・・・。」 そして私が聞いた情報は間違ってなかったらしく、それから数週間後に風祭先輩のお兄さんが学校へやってきた。 はお兄さんが先生との話を終え、教室から出てくるのを待つ。 「あ、あの・・・!こんにちは!」 「あれ・・・?君は・・・前に学校で・・・」 「は、はいそうです!前に助けてもらって・・・すごく助かりました!」 「そう。お役に立てたなら嬉しいな。」 「あの、それでですね・・・。今日はお礼を・・・」 「え?」 「あの、ぐ、偶然・・・!わたし、友達にお菓子を作ってきてて・・・!お礼になるかはわからないんですけど・・・!」 「お菓子?君が作ったんだ?」 「は、はい・・・!」 「ありがとう。」 「い、いえ!」 「それじゃあ俺は行くね。」 「アンタ、作戦はどこに行ったの?」 が意気込んで考えていた作戦は、お兄さんにお菓子を渡しつつ、会話を盛り上がらせ あわよくばそのまま自分の家まで車で送ってもらい、そこでもいろんなことを話し・・・という感じだった。 そんなうまくいくとは勿論思ってなかったけど。 「あー緊張した!苦しい・・・!」 「・・・。」 「あの笑顔は反則・・・!目の前にいるだけで頭真っ白になったよ・・・!」 「かなりてんぱってたよね。」 「仕方ないでしょ!ドキドキしたんだもん! あー、でも喋れた。お知り合いになれた・・・!」 「あれでお知り合いになれたって言うの?」 「もー、しーちゃんにはロマンってものがないの?!」 「とりあえず、やみゆきみたいに恋にそこまで必死にはなれないわ。」 「しーちゃんも恋しようよ!」 「そんな人がいたらね。」 私にはみゆきやのように、好きな人はいない。 恋愛で一喜一憂する二人に呆れもするけれど、時々羨ましくも思う。 「ちゃーん!どうだった?!」 「お菓子受け取ってもらったー!でもあまり喋れなかったから作戦は失敗!」 「そうなんだ、残念だね・・・。じゃあ次こそ私が頑張るね!」 「うん!でもわたしも功さんの前だとみゆきみたいに焦っちゃったし、ゆっくりでいいよ!」 「うん!」 「じゃあまた2年生のとこ行こう!」 「うん!」 「しーちゃんもつきあってくれるんでしょ?」 「・・・仕方ないなー。」 また2年生の教室の傍で、隠れながら風祭先輩を見つめる日々が続くのか。 結局もお兄さんとほとんど話せなかったから、二人の恋が叶う日はいつくるのか。 まだまだ前途は多難だけど、そんな二人を見ているのも楽しいし、 そして自分がいつか恋したときに、一緒に一喜一憂したいとも思うから。 これからも二人を応援していようと思う。 TOP |