全力少年、毒舌少女









、見ろよこれ!完成した!」

「何が?」

「お前、俺のギター聞いてみたいって言ってただろ?だから1曲書いてみた!」

「・・・そんなこと言ったっけ?」

「ちょ、お前・・・!言った!言ったぞ!俺は確かにこの耳で聞いた!」

「わかったよもー。暑っ苦しいなあ。」

「なんだよそれ!ひどくねー?!」

「あーゴメンゴメン。」

「全然気持ちが入ってねえよなお前。」





目の前にいる彼女、とは中学に入ってからの付き合いだ。
何を言っても動じないというか、ひどい言葉を浴びせてくる彼女に俺は恋してしまった。
一見性格がひどそうな彼女を好きになったきっかけは置いといて、俺は今日も彼女の気をひこうと必死だったりする。





「今日俺んち来れるか?弾いて聞かせてやるよ。」

「聞かせてやるよって別にわたし、聞きたいとか言ってないんだけど。」

「お前なー!!」

「ところで聖悟、この間アンタに誘われてサッカーの練習見に行ったじゃない?」

「あ?え、うん、それがどうした?」

「カッコいい人がいっぱいいたね。」

「・・・。」

「・・・。」

「それでなんだっけ?聖悟のギターがなんだっけ?」

「ちょ、何今の!!何の脈略があってそんな話すんだよ!!」

「えー、ちょっと思い出しただけ。」

「確かにあの集団はおかしいよ!さすがの俺もちょっと負けたかなって思うくらいの顔してる奴はいるけどさ!」

「だから深い意味はないってば。」

「ちくしょう・・・どうせ俺なんて・・・!」

「うざったいなあ。」

「今かける言葉がそれか?!ていうかお前のせいだよな?!」





必死な俺にたいして、はいつも飄々としていて。
そんな彼女に俺はいつも振り回されているんだ。





「聖悟、あの人たちの前だと結構カッコつけてたでしょ。何あれ、見栄?」

「見栄?!見栄ってなんだよ!つけてねえし!あれがいつもの俺だし!」

「・・・じゃあ今、私に自分のギターの弾き語りを聞かせようと必死になっている聖悟くんはなんなんですかね。」

「・・・具体的に言わないでくれるか?恥ずかしくなってくるから。」

「その恥ずかしいことをしてる本人が言う台詞じゃないよね。」

「うるせえな!お前の前ではいつも必死なんだよ!カッコいい俺が崩れんの!」

「え、誰がカッコいいって?」

「あーもうむかつく!何で俺こんな奴好きなんだー!!」





サッカー仲間の前では俺、そんな熱いキャラでもないのに。
の前ではこんなに必死になってて、こんな姿みたら笑われるんだろうな。
それでも俺は。





「じゃあいつだって止めていいんだけど?」

「止められないってわかってて言ってるだろ?」

「わかった?」

「わかるっての。なめんな。」





彼女が好きで好きで、どうしようもない。





「もうひとつ質問。」

「何?」

「そんな私が大好きな聖悟くんは、つきあってる今でもどうしてそんなに必死なの?」

「・・・。」

「ねえ、なんで?」

「お前が・・・いつまで俺とつきあってくれてるか、わからないから。」

「・・・。」

「・・・お前の気を・・・ひいてたいんだよちくしょう!」





出会ったときからそうだった。
普段いろいろなことに無関心な彼女は、自分の興味の持ったことに人一倍行動力を発揮する。
だから俺はいつだって彼女の気をひきたい。ずっと彼女の傍にいたいとそう思うからだ。





「そういうのいらない。」

「・・・え?」

「聖悟がそこにいてくれるだけで充分だよ。」





あまりにも予想外な彼女の言葉。
俺はポカンとした顔を浮かべて、それからその言葉を実感して思わず顔をほころばせる。





「それって・・・!」

「聖悟って何もしなくても興味深いもん。」

「・・・え・・・?」

「暑っ苦しいし、うざったいし、いきなり大声だすけど。見てて飽きないよね。」

「え?飽き・・・え?!」





喜んだ自分がバカだった・・・。
彼女が無条件に俺を喜ばせるようなこと言うわけなかった。儚い夢だった・・・。





「って、どこ行くんだよ!」

「ギター、聴いてあげようかと思って。」

「・・・お前聴きたくないんじゃなかったの?」

「聴きたくないとは言ってないよ。」

「じゃあ聴きたいか?」

「さあ?」

「なんだそれ!くそ、ちゃんと聴けよ!めいっぱい感動させてやるから!!」

「そんな張り切らなくていい。ていうか張り切らないでください。」

「なんでそこ敬語?!マジでうざったがってねえお前?!」





「・・・私はそんなに暇な人間じゃないよ。」





そう一言返すと、彼女はまた俺の家に向かって歩き出した。
俺の質問に答えてなくねえ?と思いつつ、彼女の言葉を頭の中で繰り返す。

暇な人間じゃない。暇な人間じゃない。
うざったがってる人間の家に行くほど暇じゃない・・・?

それだ!うん、それだ!
都合のいい解釈かもしれないけど、なんだかんだでこうして彼女と俺はつきあっているんだから。
それくらいポジティブに考えたってバチは当たらないだろう。



それに俺は先にさっさと歩いていくフリをして、彼女の歩く速度が落ちていることも知ってる。
俺が先ほどの場所から動いてないことに気づいて、そろそろ彼女は俺の方へ振り向くだろう。





「聖悟、何してんの?そこに突っ立ってるとまわりに迷惑。」

「・・・っ・・・ははっ、やっぱり・・・!」

「・・・何笑ってんの?おーい、誰かー。変な人がここにいまーす。」

「ちょ、お前・・・!アホー!!」





毒舌で淡白で、俺の方ばかりが彼女を好きなように思えた。
だけど俺も彼女を好きになった頃よりも彼女が見えるようになったと思うんだ。

気持ちがわからないことも、不安に思えることもあるけれど、それでも俺は彼女が好きだから。
彼女が俺に興味を抱いてくれているように、俺も彼女への興味はつきない。
だからこれからもお互いに、少しずつ知っていければいい。

呆れたように俺を見て笑う、彼女を見ながらそんなことを思った。






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