年下少年、年上少女 姉に借りた辞書を手に持ち、部屋の扉をノックする。返ってきた声を聞いてから扉を開けた。 「これ、借りてた辞書・・・うわあ!!」 「うわあって何。」 「・・・!なんで?姉ちゃんは・・・?!」 「姉ちゃんはコンビニー。さんはお留守番ー。」 「あ、そう・・・。」 「相変わらず無愛想なんだからもう!彼女できたか?」 「何だいきなり・・・!いねえよそんなもん!」 「そっかーまだなのかー。お姉さん心配ー。」 「別にいらねえし!ていうかお姉さんってなんだよ!は姉ちゃんの友達ってだけだろ?!」 「ま!私のことはお姉さんって思ってくれないの?!昔からの付き合いなのに!」 「俺は・・・俺は、のこと姉ちゃんだなんて思ってない。」 「何それ!じゃあどう思ってんの?」 「それは・・・」 「何くちごもってるのー?!あれでしょ?!近所のおせっかいなおばちゃんとかと同レベルで考えてるんでしょ!そうでしょ?!」 「いやそんなこと・・・」 「うざい?私うざいの?!一馬にそう思われてたの?!あーもう立ち直れない・・・!」 「あーもう!ちょっと黙れお前!」 矢つぎばやに放たれたの台詞に口をはさむ余地がなく、俺は声をあげて彼女の言葉を止めた。 「黙れって・・・かじゅまが怖い・・・!いつからそんな悪い子になっちゃったの?」 「が人の話、聞かないからだろ?!」 「聞いてるよ。かじゅまは私のことお姉ちゃんって思ってくれてないんでしょ?あー悲しい。あー切ない。」 「だから、別にそれは突き放すとかそういうことじゃなくて・・・」 「ほうほう。」 「・・・姉ちゃんとは違うっていうか・・・その・・・」 「うんうん。」 「・・・お前、さっきの慌てぶりってわざとだろ?」 「話を脱線させなーい!」 「くっ・・・」 「で?」 「・・・は・・・こそ彼氏とか・・・いるのかよ。」 必死で絞り出すように出した声は、自分の自信のなさで小さく聞き取りづらかっただろう。 けれどはいつもそうしているようにちゃんと俺の言葉を受け止め、返事をくれた。 「私ももう高校生だしなあ。」 「・・・いるってこと?」 「大人だしなあ。」 「・・・。」 「でも、残念なことにいないんだよね。世の中おかしいね、私みたいな子をほっておくなんて。」 「!」 「・・・っ・・・一馬くん?顔がにやけてますよ?」 「にやけてねえよ!」 彼女の言葉に思わず落ち込み、そしてすぐに喜んだ。 意識したつもりなんてなかったのに、そんな俺を見てかが吹き出すように笑った。 「そんなわけで、誰か私の魅力をわかってくれる人がいないかなって思ってるんだけど。」 「・・・が・・・」 「ん?」 「・・・お、れが・・・つきあって、やってもいいけど。」 「・・・っ・・・ふは、ははっ・・・あははは!!」 「な、何だよ!何爆笑してんだよ!!」 「あーダメだ。可愛すぎてもう・・・!」 は笑いながら、四つんばいの状態で俺に少しずつ近づく。 そして俺の目の前に来たと思ったら、じっと俺を見上げて。かたまってしまった俺の首に手をまわした。 「ちょ、ちょっと・・・な、なんだよ・・・!」 「可愛い。」 「可愛いなんて言われても嬉しくないっ・・・つーかお前、俺をペットかなんかと勘違いしてないか?!」 「失礼な。ちゃんと可愛い男の子だと思ってますー。」 「だから可愛いは余計・・・!」 「つきあってくれるんだ?」 俺を弟扱いして、からかって、可愛いとまで言われて。 変わらなかった俺たちの関係が今、変わろうとしているのだろうか。 いつも俺を弟扱いしていたの気持ちがいまいちわからない。 「・・・ペットじゃないからな。」 「わかってるよ。」 「弟でもないからな。」 「あは、わかってるって。」 「可愛くもないし。」 「それは頷けないな。」 「頷けよ!お前本当に俺のことっ・・・」 彼女の気持ちを確かめたくて。それでもからかい気味に笑う彼女にイライラして。 抱きつく彼女を無理矢理引きはがしてそれを確認しようとしたけれど、その言葉は遮られる。 目の前にある彼女の顔。彼女の匂い。唇に触れる温かな感触。 「私はペットにも弟にもこんなことはしないなあ。」 「お、おまっ・・・お前っ・・・」 「好き。」 余裕の笑顔で。 俺が彼女と同じように笑ってその言葉を伝えられるのはいつになるだろうか。 俺より年上で一枚も二枚も上手の彼女。 だけど、そのせいで俺の気持ちだってもうしっかりと知られてしまってる。 どんなに下手な言葉でも、不器用な表現でも、きっと彼女はわかってくれる。 「ふふ、一馬は正直だなあ。」 「まだ何も言ってねーよ!」 ただ、その言葉を伝えるには自分はまだ子供すぎるようで。この気持ちを素直に言葉にすることすらできない。 だけどこのままじゃ悔しいから、いつかこの立場を逆転させてやる。 そうしていつかきっと。 今の俺のように、慌てふためく彼女の姿を見て可愛いとからかってやる。 TOP |