変化球少年、直球少女 「英士おはよう!今日も大好き!」 「ああ、そう。」 「ああそうって何!可憐な乙女が勇気を出して大好きって言ってるのに!」 「可憐な乙女は挨拶のついでに告白したりしないよね。」 「します!なぜなら可憐な乙女な私がそうしているから!」 「まあ思うのは本人の自由だよね。」 「なにその言い方!キー!でも好き!」 同じクラスになってから数ヶ月。 出会った頃は意外と気があって、よく話していた人間だったと記憶にはある。 その頃も彼女は今と同じように煩かったけれど、煩い人間には慣れていたからそれなりに仲もよかった。 「あ、英士。英士が読んでた本面白かった!それでさ、昨日本屋行ったら最新シリーズ売ってたよ! そのまま買って読んじゃったから、英士も読むなら貸すよ?」 「・・・見返りは何もないよ。」 「キャー!何を疑ってるんですか!私は純粋に英士を喜ばせたいと思っているのに!」 「疑うような行動をするが悪い。」 「愛の告白を疑うような行動と言ってますかこの人!ひどいですひどいです!」 「あーもううるさいな。そんなに言うなら別に「貸します!ホラ、どーんと借りたまえ!!」」 煩くて気が合わないと思っても、サッカーという共通目標があれば友達は出来るように。 と気があったのも、趣味が同じだったからなんだろう。 そんなが俺に毎日のように告白をするようになった。 本人曰く、いつの間にか俺を好きになっていたと気づいたからだそうだ。 「愛に見返りは求めないの・・・!私は愛されるよりも愛したい!」 「ああそう。じゃあ相手が愛してくれなくてもいいんだね。よかった。」 「よかった?!いやいやいや!愛してくれた方がいいに決まってるでしょう?!」 「見返りは求めないんじゃないの?」 「基本は。でも見返りがあったほうが嬉しいです。」 「結局欲しいんでしょ。」 呆れてため息をついた俺をみて、がごまかすように笑う。 その笑顔に毒気を抜かれ、俺はもう一度ため息をつくと自分の鞄からも1冊の本を取り出す。 「あとで見返りとか言われるのも嫌だから。俺もこれ貸しておく。」 「え、あ!これ、私が探してたやつじゃん!どうして?!」 「この間、古本屋に行ったら売ってた。俺も興味あったから。」 「う、う、うわあー!英士大好きー!」 出会った頃からは感情を隠さない人間だった。 怒るときはこっちが引くくらいに怒るし怒鳴るし、悲しいときはやっぱりこっちが引くくらいに大泣きするし。 逆に楽しいときはこっちが呆れるくらいに顔いっぱいに笑う。嬉しいときも、同じ。 だから俺への気持ちに気づいたの言葉に、ひとつも嘘はないんだろう。 けど、こうも毎日好きだ好きだって言ってたら、その言葉の価値が下がるとか考えないのかな。 ・・・考えないんだろうな。だから。 「・・・英士はやっぱり優しいよね。」 「何が?」 「私が英士に告白してからも、普通に接してくれてるし。」 「・・・。」 「好きでもない子から告白されたら、ホラ、ちょっと距離を置いたり・・・するじゃん?」 「そうだね。」 「でも英士は変わらないでいてくれたから・・・安心した!」 「別に俺、を好きじゃないなんて言ってないよね。」 「うん・・・って、え?!何?今何て言った?!」 の毎日の告白に、俺はまだ一度もまともに返したことがない。 はそれを自分の気持ちに応えられないからだと思っていたみたいだ。 俺の言葉に目を丸くして、期待を込めた視線で俺を見つめる。 「好きだとも言ってないけどね。」 「・・・。」 けれど俺はニッコリと笑って、彼女の希望を打ち砕く。 「英士の意地悪!期待させて突き落とすなんて最低よ!でも好き!」 「・・・っ・・・一体どっちなわけ。」 「好き!好きです!そんな意地悪なところも悔しいけど好き!」 「・・・っ・・・ははっ・・・相変わらずバカだな。」 「なっ・・・!何ですって!」 コロコロと変わる彼女の表情。 気づいてる?学校じゃ俺、ふきだして笑うことなんて滅多にないんだ。 気づいてる?俺は自分の物を誰かに貸すなんて、誰かの物を借りるだなんて、滅多にしないんだ。 気づいてる?確かに俺は君を好きだなんて言ってない。 だけど、俺はまだ君に何も伝えてない。好きとも、好きじゃないとも。 まだ、伝えていないだけ。 「・・・英士って本当に読めない奴だよね!」 「はバカみたいに行動が読めるよね。」 「バカみたいは余計!」 「俺の行動も読めるように頑張ってみたら?」 「頑張ります!ていうか頑張ってますけどね!」 「じゃあこれからも頑張って。」 「そんな他人事みたいな・・・!」 俺の中でとっくに答えは出てる。それこそ、彼女が俺に告白をする前から。 だけど、しばらくはこうして俺のことで必死になる彼女を見ているのも楽しいから、まだ何も言わない。 彼女が俺の気持ちに気づいたら、どんな顔をするだろう。どんな反応をするんだろう。 そのときのを想像すると、つい笑みが零れてしまう。 性格が悪いと言われればその通りなんだろうけれど、はこんな俺が好きらしいから。 だから、もう少しだけこのままで。 TOP |