長身少年、短身少女 「木田ーーーー!!とうっ!!」 「え?うわっ・・・!」 大きな掛け声と共に、膝の裏を蹴られバランスを崩す。 しかしそれはそれほど大きな力ではなかったため、倒れこむこともなくなんとかバランスを持ち直した。 日常と化した悪戯のような出来事に、小さくため息をつきながらわかりきった犯人へと視線を送る。 「何よ!なに見下してるの!ちょっと背が高いからって!」 「見下してるっていうか、これが普通なんだけど・・・。」 「見下すが普通?!なんて嫌な奴!」 「いや、そうじゃなくてな?」 他のクラスメイトよりも、大分下に視線を向けて彼女を見つめる。 彼女の名前は。中学3年のクラス替えで初めて一緒のクラスになった子だ。 そんな大きな中学校ではないため、彼女の存在を知らないわけではなかったけれど きちんと話したのは、同じクラスになってから。 「木田のバカ!巨人!」 「・・・。」 なのに俺は彼女に目の敵にされ、毎日のように今のような攻撃を受けるのだ。 「おいおい、また始まったぜ親子ゲンカ。」 「反抗期の娘は大変だね、お父さん。」 日常となったこの光景に、クラスメイトたちが笑いながら俺たちを見てる。 俺の身長は180以上あり、中学生にしては身長が高い。 そして、目の前の彼女は。 「誰が親子だ!木田がふけてるだけでしょー!!」 「いやあ、ちゃんがちっちゃいのもあるかと・・・」 「誰がちっちゃいって!誰がー!!」 目の前の彼女、はどう見ても30・・・いや40センチ近くは俺よりも小さい。 さらに彼女はそれがコンプレックスらしいのだ。 「私は戦ってるの!ちょっと巨人だからって人を見下してる木田と!」 「うんうん、そうだな。巨人族に勝つための小人族の戦いなんだよな?」 「そう!戦い!って、誰が小人だあ!!」 「きゃーこわい!ちゃんが怒ったー!」 しかし本人がいかに嫌がろうとも、彼女の身長や容姿は皆のマスコット的存在。 いつも必死だから、今みたいにクラスメイトにからかわれていることもしょっちゅうだ。 そして、そのストレスがただ身長がでかいだけの俺に来るんだよな・・・。 「今日もちゃんは必死だなあ?お父さん?」 「お父さんは止めろよ。あまりからかうとまた俺に被害が・・・」 「なーに言ってんだよ!娘に構われて嬉しいだろ?」 「もう勝手に言っててくれ・・・。」 友達の言うことはあながち外れてはいない。 いつも必死で向かってくる彼女は可愛らしいと思うし、父親・・・なんて心境は知らないけれど なんていうのか、微笑ましいんだ。あ、やっぱり嬉しいのか?俺。 「しかし何で木田だけなんだろうな?」 「え?」 「お前の身長くらいの奴って、他にも何人かいるじゃん? でもちゃんが絡んだって話、聞いたことないぞ。」 「・・・確かに。」 「もしかして、お前本気で嫌われてたりして!どうするお父さん!」 「・・・だからそれは止めろって。」 今まで自分は身長が高いからに攻撃を受けていたのだと思っていたけど。 確かにこの学校には他にも180以上の身長の奴はいるはずだ。 このクラスにだってもう一人いるし。けれど、そのもう一人にが絡むことはない。 あれ?皆にお父さんお父さんと言われて、もしや俺は大事なことを考えていなかったんじゃ・・・。 実は身長以前に俺はに何か失礼なことをしていて、は本気で俺を嫌っていたり、なんて。 「・・・う・・・むー・・・!」 「これか?」 「あ、ありがとー・・・って木田!!」 偶然、図書室の高い位置にある本に手を伸ばすを見つけた。 それを手に取り渡すと、彼女は礼を言いながらも俺の顔を見て顔をしかめた。 「な、何よ!身長が高いのひけらかして!」 「別にひけらかしてなんてないんだけどな。」 「何食べてそんなに大きくなるの!言ってみなさい!」 「いや、普通に肉と野菜と魚と・・・。特別なものは何も。」 「フン、役に立たない奴!」 元々彼女はそんなに悪い性格ではない。 先ほどのように素直に礼だって言えるし、よく笑っていて友達にも囲まれてる。 まあ目には目をな性格らしいから、今のような暴言を言うこともあるけど。 そう考えるとやはり俺につっかかる理由は身長以外にもあるのだと思える。 「なあ、。」 「何?」 「俺って・・・に何かしたのか?」 「・・・は・・・?」 「いや、俺、に嫌われてるみたいだから。」 「・・・身長の大きい奴は皆キライ。」 「それを言ったら他にもでかい奴はいるだろ?でもは俺にばかりからむだろ? それは俺が何かしたからだと・・・」 が目を丸くして俺を見上げた。 けれどすぐ視線を落とし、何か考えるように額に手を当てた。 「・・・?」 「私は大きくなりたいの!」 「え?あ、ああ。」 「知ってる?人間っていうのは、目標が近くにあるとそれを無意識に意識して頑張ろうって気になるの!」 「そ、そうなのか。」 「だから、だから仕方なく、大きな奴の傍にいるの!」 俺を見上げることもなく、視線を外すからその表情は見えない。 けれど、彼女の白い肌が赤みを帯びているのは見えた。 「それって別に俺じゃなくてもいいんじゃ・・・」 「身長の大きい奴は皆キライなの!」 「・・・え?」 「・・・でも・・・木田は・・・そんなに、キライじゃ、ない、から。」 たどたどしく、小さな声で。 それでもその声ははっきりと俺の耳に届く。 「ち、違った・・・!マシ!その中でも木田はマシなの!」 慌てて言葉を訂正し、ようやくあげた顔はやっぱり真っ赤だ。 俺は思わず笑みを零してしまって。 「はどこまで大きくなるつもりなんだ?」 「木田くらい!木田を越す!!」 小さな彼女の大きな目標に、今度はふきだして笑ってしまった。 「な、何笑ってんのよ木田!バカにしてんでしょ!!」 「・・・っ・・・」 「ムカつく!バカ!巨人!」 そしてまた、いつもの彼女の言葉。 けれど、そんな彼女がやっぱり可愛らしくて微笑ましくて。 「じゃあは俺の身長に届くまで、目標である俺の傍にいるんだ?」 俺の言葉に一瞬ポカンとして、それからまた顔を真っ赤にさせた。 言葉にならない声で、何かを言おうとしては首を振り、口をただパクパクとさせて。 そんな彼女を見て生まれた感情はおそらく、誤解が解けて嬉しいとか、 妹とか娘だとかそんなものじゃないんだろう。 体が熱くなって、思わず空を見るように視線を上へ向けた。 少し卑怯だったかもしれないし、理由を聞いたらきっと彼女は怒るのだろうけれど。 こうすれば小さな彼女に真っ赤になった俺の顔を見られることはないから。 TOP |