生真面目少年、不真面目少女








・・・!またお前だけだぞ、国語のノート!」

「えー?国語って何かあったっけ?」

「今日中に提出って言ってあっただろ?集めないと係の俺が怒られるんだけど。」

「まったまたー。怒られるのは私で水野じゃないっしょ。優等生!」

「・・・どうしてお前はいつもそうなんだよ。」





今回国語の課題で出された漢字の書き取り。その前に出された感想文。さらに前に出された問題集。
国語の授業での課題を集める、国語の係となっている俺を困らせる人物。
たいして難しくもない課題を毎回やってこない彼女に、俺はいつも頭を悩ませている。

別に俺がそれを集めなくたって、確かにが先生に怒られるだけ・・・と思ったらそうでもなくて。
国語の教師はかなり厳しく、さらには全員分提出できないのはいつもB組だけだなんて嫌味まで言ってくるんだ。
それが冗談のつもりとして言っていたって、こっちとしては面白くない。





「・・・今からならまだ間に合う。俺が見てやるからホラ、ノート出せよ。」

「え?マジで?やったラッキー。」

「辞書は?」

「ないよ、あんな重いもの。」

「・・・国語の授業で使ってるだろ?!」

「だからたまに見せてもらってるじゃん、水野に。」

「あれは忘れたって言ってたから・・・ああもういい!」

「ていうか自分で調べるの?水野のノート見せてくれるわけじゃなくて?」

「お前少しは自分の力でやることを覚えろよ。」

「えー、ケチー。」





・・・ああ言えばこう言うし。
国語の教師に嫌味を言われるのと、この不真面目な奴にきちんと課題をやらせるのとどっちがマシだろうか。
しかしまた嫌味をいわれるのはやっぱり嫌だ。今度こそちゃんと課題を揃えて持っていって、もう何も言わせない。





「・・・。」

「・・・。」

・・・お前さ・・・」

「んー?」

「漢字、書けてるぞ?」

「そりゃあまあ、授業は聞いてるからね一応。」

「そんな簡単にできるなら最初からやれよ!」

「だって面倒なんだもーん。」





何だよもうコイツは・・・!辞書出した意味もなくスラスラ書いていってるし!
苦手とかじゃなく、少し時間をかければ簡単に出来たんじゃないかよ。





「そんなに出来るなら次からはキチンとやってくれよ・・・。」

「・・・んー、気が向いたらねー。」

「何だそれ!大体、他の教科だと結構提出率いいよな?!何で国語だけなんだよ!」

「そこには乙女な理由があったりなかったりね。」

「・・・意味がわからない!」





漢字の書き取りを進めながら、気のない返事をするを見て大きくため息をついた。
さっぱり意味がわからない。一体どうしたら彼女の不真面目さがなおるんだか。





「・・・どうしたらやる気出すんだよお前・・・。」

「・・・提出物、ちゃんと出してほしい?」

「最初からそう言ってるだろ?」

「それにはひとつ、良い案があります。」

「は?」





何だよもう。良い案だか何だか知らないけど、この気苦労が減るなら言ってくれ。





「私は水野が数学係だったら、数学の提出物を出すのが遅れるよ。」

「・・・はい?」

「英語係だったら英語、理科係だったら理科。」

「何言ってるんだ?。」

「わからないかなー、この乙女心。」





・・・さっきから乙女乙女って、何を言いたいんだ?は。
しかも何で俺の係が違うたびに提出が遅れるんだよ。

それってまるで俺のせいでの提出物が遅れてるみたいな・・・





「嫌がらせかよ!」

「水野、意外とバカだよね。」

「な、何でだよ?!」





だって俺の係が変わったらは提出物出さないんだろ?
それって俺を困らせる以外に何かあるのかよ。









「私が何もしなくても水野が構ってくれるなら、もう少し真面目になれると思うんだけど。」









漢字の書き取りをしたまま、恥ずかしげもなく。
俺はのその言葉の意味を理解しようと、混乱しはじめていた思考を必死でめぐらせる。




「でーきた。はいっ!」

「・・・え、あ、ああ。」

「お互いに生真面目さと不真面目さがちょっとずつ必要だと思わない?結構バランスいいと思うよ。」





その台詞だけ言うと、唖然とする俺を残して彼女が席を立ち教室から出ていった。
俺は無意識にのノートを持ち、別の場所に積んであったクラス全員のノートに重ねる。





「・・・え・・・ええ?!」





そしてようやく言葉の意味を理解すると、一気に顔の熱があがってくる。
ていうかちょっと待て。が提出物を出してなかったのはつまり俺のせい?
俺と話すきっかけが提出物を遅らせることだった・・・ってことか?

って、何でそんな方法なんだよ・・・!俺は苦労して、教師に嫌味を言われて散々な目にあってたんだぞ?!
そんなことしなくても素直に気持ちを伝えてくれれば・・・いやそれだけじゃ確かに印象には残らないけど・・・。
大体が不真面目なのは元からだと思うし、それを俺のせいにされても困るわけで・・・。

まあでも・・・そうだな、不真面目がいいことだとは思わないけどの考え方に興味がないわけじゃない。
俺と話すことで少しでも真面目になるのなら、いいことだと思うし。
たくさん話をすればするほどに、彼女の不真面目じゃない部分も見れるのかもしれないし。



・・・なんて言い訳をつけてまで話す理由を探したりするところが、生真面目だって言われるんだろうな。



人に苦労ばかりかけていたというのに、何故か憎めなかった彼女。
つまりは俺も、課題以外のきっかけで彼女と話してみたかったようだ。





TOP