器用少年、不器用少女









部活が終わり、忘れ物を取りに自分の教室へ戻った。
もう暗くなり、誰もいないはずの教室には何故だか一つの人影。





「お??」

「・・・。」

さーん?何しとんのー?」

「・・・。」

・・・」

「ぐがー!!できない!!」

「おわっ!!なんやねん!!」

「あ、シゲ、いたの。」

「おったわ!そんでお前は一人で何してんねん。」

「・・・。」





そこにいたのは、クラスメイトの
俺の席の隣で、最近よく話すようになった子だ。
なにやら必死で俺の声も聞こえていなかった彼女に声をかけてみる。
その手に見えるのは、1枚の布切れとボタンと針が一本。





「何や、家庭科の課題やん。ボタン付け。」

「・・・そうですが何か?」

「なんや無駄に糸が飛び出とる気すんねんけど。」

「・・・うるさいな!何でか糸がぐちゃぐちゃになるし、ボタン外れちゃうし、出来ないもんは仕方ないでしょー?!」

「逆切れかい。ちょお貸してみ。」

「・・・。」

「・・・。」

「出来たで。」

「・・・はあ?!」

「だから出来たって。」

「・・・何これ、信じられない・・・!」

「これ提出すればええやん。」

「何でシゲが出来るのー?!」

「何でもできるシゲちゃんやからな。当然や。」





自分で言うのもなんやけど、俺はどうも手先が器用で大抵のことはすぐにこなせる。
正直ボタンつけなんて朝飯前や。
それが出来なかったは驚いた顔で俺の手にある布をマジマジと見つめた。





「・・・もう一回やる!貸して!」

「は?別にこんなん自分でやらんでもええやん。」

「自分で出来なきゃ意味ないの!」

「課題やから?自分、そんなに真面目な奴だったか?」

「課題なんてどうでもいいのよ!ボタンがつけられないのが問題なの!
あーもう!こんなの簡単に出来ると思ってたのに!」

「何でそんなに拘んねん。」

「だって私女なのに、ボタンつけ出来ないってどうなの!
これじゃ好きな人のボタンが外れかけてて『あ、ボタン外れそう。つけとこうか?』っていう少女マンガ的展開が出来ないじゃない!」

「・・・自分、好きな奴おるん?」

「いやいないけど。でもこれからそんな少女マンガ的な展開が起こる予定なのよ!」

「・・・ふはっ、ホンマアホやなあ。」

「・・・はあ?!誰がアホよ!」





隣の席になったときから思ってたけど、ホンマにおもろいやっちゃなあ。
どこかズレとるというか、天然というか。どんな感情もすぐに見せるから表情がコロコロ変わって退屈しない。





「まあ落ち着け。なら俺が教えたるわ。」

「え?本当に?」

「俺にかかればこんなんチョチョイのチョイやで。」

「やった!お願いします師匠!」

「そうやな。そんで好きな奴にボタンの1つでもつけてやればええわけや。」

「ハイ!その通りです!」

「そうかー。俺は自分でつけられるけど、せっかくやからつけてもらおうかな。」

「ハイ!・・・ってあれ?」





何かおかしいという表情を浮かべて俺を見上げる。
ああ、ホンマに鈍いわコイツ。





「好きな奴のボタン、つけてやるんやろ?」





俺を好きになれって言うてんの、わかってるやろうか。





「・・・れ、練習ってことでしょうか師匠・・・!」

「ダメやコイツ、ホンマもんのアホや。」

「だ、だから誰がアホよー!」





この慌てよう。うすうす気づいてはいるんやろうけど。
まあこれから師匠と弟子になるんやし?
その間にいくらでも惚れさせたるわ。






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