神様どうか前に進む勇気を下さい 「ねえ。いいこと教えてあげようか。」 「何ですか翼さん。楽しそうですね?」 「柾輝。また告白されてたよ。」 「!!」 部活中、ドリンクを受け取りながらさりげなくつげられた一言。 そんな面白そうに笑わなくったって、翼さんの言いたいことはわかってます。 「だ、だから?」 「平然装ったって動揺が見えすぎ。とっととなんとかするべきだね。」 「よ、余計なお世話です!」 「ああ、そう。」 最近いつもヒヤヒヤしてる。 幼馴染で、ずっと側にいた柾輝がどんどん格好よくなっていくから。 翼さんに誘われてサッカー部に入ってからは、よく女の子が寄ってくる。 今翼さんが言ったみたいに、告白されることも結構あるようだ。 「何だよ。」 「別に。」 じっと柾輝を見つめていると、怪訝そうな表情でこちらを見る。 確かに、確かに格好良く見えるんだろうけどさ。 柾輝は見た目だけじゃないんだよ?皆、そこのところわかってる? 「・・・告られたんだって?」 「っ・・・!ゲホッ・・・な、何でお前が知ってんだよ!!」 渡したドリンクを飲みだしていた柾輝は、私の言葉に驚いてドリンクを吹き出した。 「知ってます〜。一昨日告られたことも〜。」 「・・・何だそのキャラ。てか、本当何で?」 「まあ、いろいろ。」 「わかんねえよ。」 その全てはおせっかいな翼さん情報なんだけど。 ていうか翼さんも逐一私に教えてくれなくてもいいのにさっ。 幼馴染として側にいる。でも、柾輝が誰かに告白される度に不安は募る一方。 だって私は幼馴染で。恋人じゃない。 柾輝だっていつかは好きな人ができる。側に、いられなくなる。 「誰とも付き合わないんだね、柾輝。」 「まあ、今は別に。サッカーの方が面白いし。」 いつまでこう言ってるのかな。 柾輝だって男なんだし、女の子に興味だって絶対あるはず。 彼女が欲しいって思ったら、いつの間にかいた、だなんて展開があったっておかしくない。 だから、だから私は。 幼馴染じゃなく、彼女として柾輝の側にいたいと思う。 柾輝の隣にいるのは他の誰でもない、私がいい。 ねえ、ずっとずっと好きだったんだよ? 「ねえ柾輝。」 「ん?」 「柾輝にとってさ、私ってどんな存在?」 「何だよいきなり。」 「聞いてみたくなっただけ。答えろ!柾輝!」 「命令かよ。」 呆れたように一つため息をついて。 柾輝は考えるように空を見上げる。 「兄妹・・・みたいな感じか。」 「・・・ふーん。」 ホラ、柾輝は私と恋人になることを望んでなんかいない。 私を女としてみていない。 柾輝が好きだけど、彼女になりたいけれど。 それ以上に、この気持ちを伝えて柾輝を失うことの方が怖いんだ。 「柾輝にはもったいない姉だけどね!」 「ちょっと待て。俺が兄貴だろ?」 「ええ!それはありえない!私の方が上でしょ!絶対!」 「・・・。ま、どうでもいいけど。」 「うわ。否定するのも面倒になったでしょ?ノリ悪い!そんなんじゃ女の子にモテなくなるわよ〜!」 ああ、墓穴掘った。 もう柾輝がモテるとか、モテないとか話す気なかったのに。 「別にいいんじゃん?お前は俺の性格、わかってんだろ?」 「・・・え・・・?」 飲み終えたボトルを私に返し、柾輝がグラウンドに戻っていく。 いや・・・いや、期待なんかしちゃダメだ。私のこと兄妹みたいって言ってたじゃない! 自分の性格を理解している奴がいるなら、モテなくてもいいってことで。 自分の性格を理解していない奴だったら、モテる必要もないってことで。 別に特別な意味なんて、きっとない。 それでも・・・私は柾輝のことをよく知ってるって思ってくれてるんだよね。 柾輝も私のこと、理解してくれてる。 私も柾輝のこと、誰よりわかってる自信があるよ。 ねえ、だから。これからも側にいたい。 たとえ、それで私たちの関係がギクシャクしたとしても。 それでも柾輝が私を突き放すなんてこと、きっとない。 柾輝が私を何とも思っていなかったとしても、それでもこの想いは前に進めるものだ。 足りなかったのは私の勇気。 ねえ神様。こんなときだけ神頼みだなんて、調子良すぎるって思うだろうけど。 あと、少し。少しだけでいい。 私に前に進む勇気を下さい。 TOP |