不意打ちは反則です 「ねえ、カズ〜。」 「なんや。」 「私、言葉って大事だと思うのよね。」 「あ?」 学校が休みとなる日曜日。 私は毎週そうしているように、彼氏であるカズの家に来ていた。 「なんや、いきなり。」 「たとえそれが口下手で、そげんこと言えるか!とか怒る人でも。」 「・・・それはあれか?俺のこと言っとるか?」 「言っとる。」 「なんや、はっきり言え。」 私が何かに不満を持ったと思ったらしい。 それまで読んでいた本を閉じ、まっすぐに私を見つめた。 「カズは私のこと、好き?」 「・・・いきなり脈絡のない質問やな。」 「まあ、乙女心として聞きたいなって!」 「男がそげんこと簡単に言えるか。」 「やっぱりねぇ。」 付き合いだして、そろそろ半年。 彼の真面目さも、格好良さも、男らしさもわかってるつもりだけど。 そんな彼の気持ちも当然わかるのだけれど。 それでも人って我侭なもので。 一度も聞いたことのない「好き」って言葉が聞きたいだなんて思ってしまった。 「・・・大体、言わなくてもわかるやろが。」 「・・・まあ、うん。そうだね。」 予想してたことだし、落ち込む必要もないんだけど。 カズの性格だって知ってたし、そんな彼が好きなのに。それでもやっぱりちょっと、寂しくて。 「・・・なんや、落ちこんどるんか?」 「いえいえ!落ち込んでなんかないっすよ!」 「口調がおかしくなっとる。」 「なっとらん!」 「アホか。」 カズの気持ちはわかってる。 私を好きでいてくれてる。それで充分。 だからもう落ち込むのは止めよう。そんな姿を彼に見せたくないし、心配もかけたくない。 「そげん言ってほしいか。」 「え?言ってくれるの?!」 「言わん。」 「何ですか!期待させといてその仕打ち!」 何よ一瞬、本気で言ってくれるのかと思っちゃったよ。喜んで損したじゃんか! 好きでいてくれるから充分だなんて、心の中で格好つけたのに台無し! 「ま、いいや!カズの代わりに私がたくさん言うから!」 貴方への気持ち。 心が温かくなるこの気持ちを、何度だって。 「好きだよ!カズ!」 「俺もや。」 ・・・・・。 ・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・ええぇ?! 「な、ななな、何!今の!カズ!!カズッ!!」 「せからしか奴やな。少しは黙っとれんのかお前は。」 「だって今っ簡単に言えるかって・・・。」 「簡単やなか。1回しか言わんからよーく聞いとけ。」 「・・・え?」 「好きや。」 カズがまっすぐに私を見つめてる。 自分の顔が熱くなるのがわかった。 ・・・そんな、言うはずのないと思っていた言葉。 不意打ちだ。ずるい。反則だ・・・! 私一人でこんな真っ赤になって、カズは微笑むように笑ってる。 ずるい、そんな笑顔。 何だか私ばっかりが、ますます貴方を好きになっていくみたい。 笑うカズにそうやって文句を言ったら、お前は本当にアホやなと怒られた。 「こげん恥ずかしい台詞ば言うのは、お前だけたい。」 そう言ったカズの顔も、ようやく私の顔と同じように赤くなって。 「ねえ、本当に1回しか言わないの?」 「・・・。」 「簡単には言わなくてもいいからさ、また言ってくれると嬉しいな。」 呆れたように、それでも優しく微笑んだカズの表情。 ねえ、それは肯定だって思っちゃっていいんだよね? TOP |