携帯電話とにらめっこ 『よっし!今俺の番号とメアド送っといたからさ!』 『う、うん!』 『何かあったらいつでも連絡してくれよな!』 そう言って爽やかに立ち去る若菜くんを茫然と見送った。 真っ赤になった顔と、高鳴る胸の鼓動は今も止まることはない。 部屋のベッドに寝転がって、私は自分の携帯を見つめていた。 「この中に若菜くんのメアドが・・・番号が・・・!!」 一人でそう呟いていた私を誰かが見ていたら、相当変な奴だと思っていただろう。 だ、だって、若菜くんのメアドだよ?!ずっと憧れてた人なんだもん!おかしくならないわけがあるか! 同じクラスの若菜くんに憧れて、ずっと彼を見ていた。 とはいえ、彼を見ているだけで話をしたこともほとんどなかったのだけれど。 じゃあ何でそんな私が若菜くんの携帯番号やメアドをゲットできたか。 答えは簡単。実習課題の研究班が一緒になったからだ。 これは結構やっかいな課題で、多分学校だけで連絡を取り合っていたら終わらないだろう内容。 そして、その研究班内で連絡先の交換を行ったわけだ。 ああ、もう先生!この課題をくれてありがとう!班メンバーをくじ引きにしてくれてありがとーう!! 「・・・。」 私はもう一度、握り締めていた携帯電話に向き直る。 うん、そうよ。そうなのよ。メアドも番号も持ってるだけじゃダメなのよ! とりあえず何でもいい。まずはメールを送ってみよう。 カチカチカチカチ 『やっほー!だよ!課題大変そうだけどこれから一緒に頑張ろっ!若菜くんと一緒だなんてすごく楽しそう!これからよろしくね!』 ・・・馴れ馴れしすぎ!私はまだ若菜くんと話したことないんだから!もっとちゃんとした内容で・・・ 『です。これからよろしくお願いします。』 かたーい!!堅すぎ!!かしこまりすぎ!! 「こんばんは・・・?いや、やっぱり堅い・・・。どうもー!って漫才か!!」 一人でぶつぶつとメールの内容を繰り返し、端から見たらやっぱり変人だと思われても仕方なかっただろう。 そうこうしながら1時間。ようやくメールの内容が決まった。 『です。さっきはありがとう。課題大変そうだけど頑張ろうね。』 短いけど、つまらないけど、結局内容あまり変わってないけど。 それでも無難。いいよ最初だし失敗したくないもん!無難最高だよ!! ようやく決まったその文章を送信・・・!! 送信・・・!! 送信ーーーー!! 「・・・押せないっ・・・!!」 後は決定ボタンを押すだけだというのに、私の指はそのたった一つのボタンを押せない。 ここまで考えて、この期に及んでまだ抵抗するのか私! ここで送らないでどうする! こういうのは始めが肝心なんだから!メアドを教えてもらった今日に送っておけば それがきっかけで普通にメールするようになるかもしれないでしょ?! 行け!送信だぁっ!! ちゃらっちゃっちゃっちゃっちゃ〜♪ 「どわぁっ!!」 一人で喚いている間に、聞こえた軽快な音。 もう!何なの人が重大決心してるとこに・・・ 『若菜 結人』 ディスプレイに浮かんだ文字に、目を疑った。 わ、わわわ、若菜くん?! 『課題、面倒だけど頑張ろうぜ〜!って頭よさそうだし、多分かなり頼らせてもらうと思うけどよろしくな!」 「・・・!!」 や、やば!嬉しい!嬉しすぎる!! 別に私頭よくないけど、若菜くんの為なら頑張るよ!頑張って勉強する!! 若菜くんからの奇跡のメールを受けて、返事のメールを打つ。 それから送信の決定ボタンを押すまでに、またさらなる時間をかけたことはもう言うまでもない。 TOP |