いつだってあなたにペースを乱される












さんお願い〜!佐藤くん探してきて〜!」

「ええ、またですか。」

「だって袴田先生怖いんだものー!自分のクラスの面倒くらいしっかり見ろとか言っちゃってー!」





クラス担任である香取先生に懇願されて
今日も絶賛サボり中である、同じクラスの佐藤くんを探す。

このクラスの学級委員になってから、香取先生には何度も同じお願いをされている。
お願いとは問題児、佐藤くんの捜索。
自分で言うのもなんだけど、真面目な性格の私は先生の頼みを断れずに彼を探す。
(ちなみにもう一人の学級委員は要領よく逃げている。)

始めは彼がどこにいるのか見当もつかなかったのだけれど。
最近はいくつかの場所を探せば、そのどこかに彼がいることにわかった。





ガチャッ





開いたのは屋上への扉。
温かな風が吹き抜けて、私の髪を揺らす。





「何や委員長。また俺に会いにきたん?」

「私よりも香取先生が会いたがってたわよ。」

「ホンマか?モテる男はつらいわぁ。」





前の授業もこうして堂々とサボっていたんだろう。
授業をサボるとか、私としては考えられないんだけどなぁ。





「けど俺は今、休憩中や。また次の機会っちゅーことで。」

「それは困る。」

「ええやん。大目に見てや。見つからんかったとか言ってくれればええから。」

「無理。できない。」

「何や、先生に怒られるからか?」

「性格上、そういう嘘はつけない。」





あまりに真面目で堅すぎる性格。
先生には頼られるけど、友達は少ない。
こうして何度も来ている私を、彼も面倒に思っているんだろうな。





「・・・あははは!相変わらずおもろいやっちゃなあ!」

「・・・?」

「そこまで正直に言われたら、シゲちゃんも行くしかないわ。」

「・・・何がおもしろいのかわからないけど、そうしてくれる?」

「はいはい。」





そう言うと彼は、寝転がっていた体勢を起こして
軽い足取りで私の元までやって来た。





「委員長、カザに似とるわ。」

「カザ?ああ、風祭くん?別に似てないと思うけど。」

「真っ正直なところとか、頑固なところとかそっくりやで。」

「・・・。」





そう言われたら否定はできない。
自分が要領の悪いことも、意見をまげない頑固者だってこともわかってるし。





「けど、あれやな。カザみたいにからかいがいのある表情は少ないな。」

「何それ。」

「もうちょっと笑ってみたらどや?ホラ、こんな風に。」





佐藤くんがそれはそれは、爽やかな笑みを見せる。
けれど私がそれに倣って笑うことなんてなくて。





「・・・無理。」

「なんや、委員長が笑ったらもっと可愛くなると思うで?」

「・・・・・・・・はぁ?!」





彼なら誰にでも言いそうな台詞。
なのに、まさか私にまでそんな言葉を言うだなんて思わなくて。
思わず声をあげてしまった。





「そこまで驚かなくてもええやん。つか、今委員長の表情変わったな。」

「・・・っ佐藤くんがバカなこと言うからでしょ。」

「バカやないし。委員長可愛いと思っとるで?」





彼が何度もそんなことを言うから。
言われなれていない言葉に、思わず体温が上昇していく。





「・・・委員長、顔真っ赤やで?」

「赤くない!」

「・・・シゲちゃんに惚れたら火傷するで〜?」

「惚れてないし!」





必死で言葉を返す私に、佐藤くんがついに声をあげて笑い出した。
もうやだこの人。絶対おもしろがってる・・・!

だから佐藤くんを探しに行くのは嫌だったんだ。
彼といると、いつだってペースを乱される。





「そんで俺は姐さんのとこ行けばええの?」

「(姐さんって…)・・・うん。その後袴田先生のところにも行くんじゃないかな。」

「・・・。」

「佐藤くん?」





一緒に歩いていた足を止めて、佐藤くんがその場に立ち止まる。
そして、反対方向に向き直り。





「佐藤くん?!」

「堪忍!あのおっさん苦手やねん!」

「ちょ、ちょっと!!」





見る見るうちに彼の背中が遠くなる。
彼を捕まえようと伸ばした右手は、空しく宙を掴んだ。





「あ、委員長!」





角を曲がって姿が見えなくなった彼がそこから頭だけを出して、私を呼ぶ。





「さ、佐藤くん!」

「また姐さんに頼まれたら、俺を探してくれるんやろ?」

「なっ・・・もうまっぴらよ!」

「それでも探してくれるやろ?」

「何言って・・・!」

「俺の最近の楽しみやねん。また明日な!」





な、何、楽しみって・・・!
こっちは気苦労ばっかりで、楽しくもなんともないんだから。

そんな心の中とは裏腹に、またしても熱くなった自分の顔に触れる。
こんな表情。滅多にすることなんてないのに。

彼に会うたび、いつもの自分じゃなくなって。
いつだってペースを乱されて。



ああそれでも。



きっと明日も私は、彼のことを探すのだろう。
自分ではまだ認めることのできない、義務以外の感情とともに。





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