明日あなたに逢えたら笑顔で「おはよう」って言おう











「やーやーやー!おはよーっす!!」

「朝っぱらからテンション高えなぁ藤代ー。」

「登校時間ギリギリまで眠ってるお前らと違って俺は朝練してるからな!」

「うわ!何だその言い方!どうせお前だって部活遅刻してんだろ?」

「そんなわけないない!俺はちょー真面目に朝練してますから!」

「絶対嘘だコイツ!」





朝のざわついている教室で、一際目立つ存在。
同じクラスの藤代くんは、武蔵野森サッカー部のエースで皆の人気者。
彼が朝、この教室に入ってくるだけで勝手に人が集まる。

それは彼がサッカー部エースという理由だけじゃなくて。
彼が分け隔てなく、誰に対しても明るく優しく接する人だから。



そう、誰に対しても。



私に対しても。





藤代くんを中心とした笑い声が、こちらに迫ってくる。
あと少し、もう少し。そしていつものように彼は。





「おはよう!」





誰もが惹かれるその笑顔で、いつもしているように言葉をくれる。





「・・・お、おはっ・・・「おっはよー!藤代!!」」

「おう、おはよっ!」





ああ、また失敗。
今日こそは言えると思ったんだけどなぁ。



彼の席の通り道が自分の席となって。
それから毎朝藤代くんがくれる挨拶が、とても嬉しかった。
地味でクラスでも目立たない私。それでも彼は人を選ぶわけでもなく、私に笑いかけてくれる。

始めは緊張して、声すらも出せなくて。
そんな私を気にする風もなく、彼は自分の席に向かうのだけれど。
だけど毎朝笑顔をくれる彼に、一言でもいい。明るく返事を返したい。

でも今、顔引きつってたんだろうなぁ。
言葉もつまってたし。
彼を前にすると、緊張して仕方がない。

たかが挨拶。されど挨拶。
人見知りな私には、なかなかの難関だ。

それでも、それでも明日こそ。





ー?」

「・・・え?う、わ、きゃあ!!」





心の中で決意を新たにしていたところに、予想外の彼の顔。
覗き込むように私を見ていた藤代くんに思わず声をあげてしまった。





「驚きすぎっ!何だよ傷つくなぁ〜!」

「ち、ちがっ・・・違くて!と、突然でビックリしっ・・・」





何だかもう言葉になっていない。言葉つまりすぎだよ、どもりすぎだよ、噛みすぎだよ私っ!!
もう恥ずかしすぎる。いつも見れてないけど、今は更に藤代くんの顔がまともに見れない・・・。





「あははは!わかったわかった。そんな必死になんなくてもわかったからさ!」

「・・・う、うん・・・」

「ところで、さっき何か言いかけてなかった?」

「・・・?」





あ、ああ!さっきの挨拶だ。
他のクラスメイトの声にかき消されたけど、私が彼に声をかけたのはあれが初めてだった。
あんなどもった声じゃ聞こえていないのも当たり前で。そもそも最後まで言い切れていなかったんだし。

けれど、そんな小さな言葉を。

彼は気づいて、こうして聞き返してくれる。





「えっと・・・あの、おはようって・・・挨拶、しただけだよ・・・?」

「何だそっか!聞こえてなくてゴメンな?おはよっ!」





顔を俯けていたから、誰にも気づかれていないとは思うけど。
私の顔は真っ赤だった。嬉しさやら恥ずかしさやら情けなさやら。
様々な感情が入り混じって。

先生が教室に入ってきてHRが始まっても、私の頭の中は藤代くんの笑顔で占められていた。
やっぱり彼は素敵な人だ。



誰にでも優しい彼。
きっと明日も私に挨拶をくれる。
例えばそれに私が答えても、彼にとっては何でもないことなのだろうけれど。



それでも、明日こそは。



「おはよう」ってちゃんと言おう。
彼にも聞こえる声で、はっきりと。



今度こそ、貴方に負けないくらいの笑顔で。





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