気付かれないように、そっと





あんなに優しい人。
あんなに素敵な人。

それは憧れから始まって。



「渋沢くんってマジで格好いいよね〜。」

「あんな人が彼氏だったらねー。」



あ、また女の子が噂してる。
渋沢くんは、女子の憧れの的で。
隠してはいたけれど、私も例外じゃなかったから。

話したことなんてほとんどない。
だけど、彼が見せる優しさや穏やかさは、私を惹きつけて。
この気持ちが恋だと気づくのに、時間はかからなかった。



「でもさんいるしね。」

「美男美女ね。絶対叶わないし。ま、さんだから許せるけどね。」



渋沢くんの話題に、必ず現れる女の子。
さんは綺麗で何でも出来て、皆の憧れ。
さらに渋沢くんの幼馴染だなんて、条件が揃いすぎてる。
本人たちは否定してるっていうけれど、
さん以外に渋沢くんに合う子なんていないんじゃないかな。



そう、思っているのに。
どうしてこんなにも、胸が締め付けられるんだろう。
私なんて、きっと渋沢くんの視界にも入っていない。
そんな私が渋沢くんの側にいることを望むなんて、なんて愚かで滑稽で。

想いだけが大きくなる。
彼に想いが通じればと、叶わないことを願ってしまう。

こんな想いを気づかれたなら、渋沢くんはきっともう私なんかに笑いかけてくれない。
だからこの想いは、誰にも気付かれないように、そっと胸に秘める。

例え叶わない願いであっても、想いを消すことなんてできないから。