「一馬!おっかえり〜!!」






「・・・・・。」








憂鬱な僕の幸せ











ジュニアユースでの練習を終えて、家に帰ってくると、
俺の部屋の俺のベッドで寝転んで、サッカー雑誌を読んでいるがいた。



「今日もお疲れ!リンゴジュースでも飲みますか?!」

「・・・何でお前はいっつも俺の部屋でくつろいでんだよ!」

「え!何怒ってんの?!お疲れの一馬を癒してあげようっていう、幼馴染の優しさでしょ?!」

「どこが優しさだよ!一番くつろいでんのお前じゃねーか!」



俺のベッドの横にあるテーブルには、リンゴジュース。ポテトチップス。
ベッドの上には、読みつぶしたであろうサッカー雑誌が数冊散らばっている。
ついでにが自分で持ってきたらしい、漫画なんかも置いてあった。



「まあまあまあ。まずはリンゴジュースでも飲んで落ち着いて。」

「何で俺が一人で喚いてるみたいになってんだ。
ていうか、そのリンゴジュースは俺のだ!

「もー。最近一馬イライラしてない?ちょっと前までは私がいても、我関せずって感じだったじゃない。
それはそれで寂しかったけどさ!」

「っ・・・。」



そう。コイツは昔から、俺の部屋に入り浸る奴だった。
俺が友達と出かけたり、サッカーの練習をしにいったりしたとき、帰ってくると大体がいた。
さすがに何年もそれが続いてくれば、そんなこと慣れてきて、怒ることもなくなってた。

じゃあ何で今更になって、俺がに怒っているかって。
それはコイツの無防備さにある。の今の格好は、キャミソールにショートパンツ。
いくら、いくら幼馴染っていったって、男の部屋でその格好でベッドに寝転がってるってさ!!
危機感なさすぎだろ?!そろそろお前も女なんだって自覚を持ってほしい・・・。

なんとも思ってない奴とか、女に慣れてる奴だったら、なんてことないんだろうけど、
俺はを可愛く・・・思うし、女だって以外ほとんど喋ったことなんてない。
14歳の健全な男子だったら、いつ理性がはずれてもおかしくない状況だと思うんだけど。



「一馬、何かあったの?私でよかったら相談に乗るよ?!」



お前のせいだ。お前の。
いっそのこと、はっきり言ってしまおうか。・・・ってどうやって言うんだ?
頭の中でその状況がシュミレートされる。
結果、笑い飛ばされて結局、状況改善されないままの俺がいた。



「うるせーな!何もねえよ!お前とっとと家帰れ!」

「何!心配してあげたのに!!バ一馬!!帰ればいいんでしょー?!」



そして結局、こうなるんだ。ああ、もう俺って・・・。
英士や結人だったら、こんな状況、サラッときり抜けられるんだろうな・・・。
俺は怒りながら、隣の家の中に入っていくを窓から眺めていた。
















「ふー・・・。あっちぃな・・・。」

7月半ば、強い日差しが照り付けて、かなりの暑さになってた。
今日はユースの練習もなしか。帰ってゆっくりしよう。
また、アイツが来るんだろうけど。そう考えるとって暇人なんじゃないか?

そんなことを思いながら、学校を出ようとすると、を見かけた。
は他の奴らとは違う、裏庭の方へ向かっていた。・・・裏庭なんかに何の用なんだ?
気になった俺は、の後を追いかけて裏庭へ向かった。



さん!俺と付き合ってください!!」



・・・告白かよ!!
ってよく考えればわかるだろ俺!!下校時の裏庭なんて呼び出しくらいしかねーよ!!
まあ・・・俺の場合は、悪い意味の呼び出しがあったりするけど・・・。
自分の苦い記憶も思い出しながら、俺はその場を動けずにの反応を見ていた。



「ごめんね。」

「あ・・・。好きな人がいるとか・・・?」

「うん。」

「もしかして・・・同じクラスの真田?」



・・・は?!何でそこで俺の名前が出てくるんだ??



「真田ってクラスでほとんど喋らないみたいだし、けど、さんとはよく話してるって聞いたからさ。」



ああ。なるほどね。俺はくだらない奴らになじもうなんて、思ってないしな。
クラスでも普通に話し掛けてくるとは、よく話すってうつるのも当然かも。



「・・・一馬とは幼馴染だからね。」

「そうなんだ。じゃあ違うんだね。・・・わかった。突然呼び出してごめんね!じゃあ!」





ズキン





俺はその場に立ち尽くしていた。
は好きな奴がいて、それは俺じゃない。・・・胸が痛い。

が俺の部屋で、俺を待っていてくれてうれしかった。
あまりにも無防備すぎてイライラしてたけど、それ以上にお前が側にいてくれることがうれしかった。
だけど、それはやっぱり幼馴染だからであって、恋愛感情じゃなかったんだな。
俺は幼馴染で、安心できる場所だから、それだけだった。

それだけ、だったんだ。















「一馬!何してたの?遅いよ!!」



学校から帰ると、がすでに俺の部屋にいた。
家に荷物だけ置いてきたようで、制服のまま、テーブルで菓子袋を広げていた。



「今日はユースの練習なかったんでしょ?寄り道してきたんだ?」

「うるせーな。お前に関係ねーだろ。」

「何〜?いきなり冷たいなあ〜。」



はいつも通りに、菓子袋を手にとり、リンゴジュースの蓋を開け
俺の部屋でくつろぐ準備を始める。けれど、俺は・・・。



。もう俺の部屋来るな。」

「え?」

「俺、お前といると、疲れる。」

「・・・一馬?」



俺はお前のこと好きなのに、その想いが通じることのない相手がずっと側にいるなんて
そんなこと耐えられるほど、俺は大人じゃない。



「出てけよ。」

「・・・一馬・・・。」

「もう、来るな。」

「・・・私、迷惑だった?ずっと一馬の負担だった?」



が悲しそうに俺を見る。
そんなことはなかった。お前がいてくれてうれしかった。けど、もう、それも終わり。
俺は無言で俯く。がその場から立ち上がるのがわかった。



「ごめんね。」



部屋の扉が閉まる。がもう、この部屋に来ることはない。胸が、痛んだ。
けどさ。お前なら、すぐに、俺の部屋の代わりなんて見つかるだろう?
俺は、お前の代わりを見つけることなんて出来ないけど、お前の好きになった奴なら
俺の部屋なんかよりも、もっといい場所をくれると思うから。

















「一馬〜?最近元気なくないか?」

「何かあったの?」


ユースの練習が終わった帰り道、結人と英士に尋ねられた。
やばいな。俺、そんなに落ち込んでたのか?



「そんなことねーよ。普通だし!」

「ふーん。そうだ!今度のユースが休みの日、英士とお前のうち遊びに行ってもいいか?」

「ああ。別に構わないぜ。」

ちゃんは元気?また一馬の部屋にいたりするかな?」



俺は一瞬固まって、すぐに表情を戻す。



「いねーよ。もう、俺の部屋に来ることも・・・なくなったし。」



あれからは、俺の部屋に来ることはなくなった。
学校でさえも、必要以上の会話はしていない。



「えー?そうなのか?俺、ちゃんおもしろくて好きなんだけどなー!!」

「・・・残念だけど、あいつ好きな奴いるぜ。」

「何のろけてんのさ?」

「・・・は?」



英士の言葉の意味がわからず、間抜けな声を出してしまった。



「そうだ!!かじゅまのクセに生意気な!!」

「かじゅまって言うな!!何言ってんだよ二人とも・・・!」

「だって、ちゃんの好きな奴って一馬でしょ?」



・・・え?何言ってんだ?アイツの好きな奴は俺なんかじゃないのに。
俺らがいつも一緒にいたから、何か勘違いしてるのか?



「違う。アイツの好きな奴は、俺じゃないよ。」

「え、だって・・・ちゃんはどう見たって・・・。」

「何でそう思ったの?一馬。」

「何でって・・・が・・・俺はただの幼馴染だって・・・」

ちゃんが、一馬に、そう言ったの?」



・・・言ってない。
俺じゃなくて、に告白してきた奴に・・・言った言葉だけど・・・。



「まさか、ちゃんが言ってもいないことを真に受けて、ちゃんを突き放したんじゃないだろうね?」

「っ・・・。」

「うわ!バ一馬!!何やってんだよ!!」

「一馬も男だったら、けじめつけなよ。ちゃんを好きなんでしょ?」

「・・・悪い!俺、先に帰る!!」

「よっしゃ!行って来い!走れ一馬!!」

「今度ちゃんと報告しなよね。」





俺は全速力で走って、駅に向かい、電車に飛び込む。

俺がただの幼馴染だとして、だからを傷つけて、突き放した。
もう、俺の部屋に来ないように。俺に安心なんてものを見つけないように。

けれど、俺の気持ちは?伝えてない。
お前をこんなに想う気持ちを伝えていない。
俺が臆病で、お前が側にいることよりも、離れてくれることを望んで
自分の気持ちばかりを優先して、お前を傷つけた。

電車を降りて、また全速力で自分の家に向かう。
もう、お前のいない自分の部屋に駆け込んで、カーテンを開ける。
の部屋の明かりはついていた。
俺は、深呼吸しての携帯に電話をかける。





『・・・もしもし。』

「・・・?あの、俺・・・」



電話をかけたはいいけど、言葉が浮かんでこない。
何から伝えればいいんだ。お前に何て、言えばいい?



『一馬。私、ちょっと話あるんだ。そっち、行ってもいい?』

「あ、ああ!俺もお前に話があって・・・。」



何分も経たずに、が俺の部屋にやってきた。
その表情は真剣そのものだった。
少しの間、二人の間に沈黙が流れる。



「一馬。」

「あ、ああ。」



が沈黙を破って、俺に話し掛ける。



「一馬が迷惑だって言うなら、もう、この部屋には来ない。けど、私・・・」

「迷惑なんかじゃない!!」



の言葉を遮って、俺が叫ぶ。
が顔を上げて、俺を見る。



「本当は、うれしかった。お前がこの部屋にいてくれることが。
迷惑なんかじゃなかったんだ。」

「・・・え?」

「けど、俺の気持ちが、お前に通じないってわかったら、
一緒にいることがつらくなって、だからお前にあんなひどいこと言った。」

「何・・・言ってんの?」

「だけど俺はお前が好きだから!お前が誰を好きだって、お前が好きなんだ!!」



俺は顔を真っ赤にして叫ぶ。これが俺の本当の気持ち。
お前を傷つけてまで、隠そうとしてた気持ち。



「・・・バ一馬!!」

「おあっ!!」



が俺に抱きつく。
俺はびっくりしながらも、抱きついてきたと自分の体を支える。
は俺に抱きついたまま、言葉を続ける。



「私が何で、一馬を好きじゃないって思ったの?」

「お前が告られてるとこ見て・・・好きな奴がいるけど、俺はただの幼馴染だって・・・聞いたから・・・。」

「・・バカだなぁ。私は一馬にそんなこと言ってないじゃん。」

「・・・うん。」

「私のせいで、一馬が呼び出しかけられてたの、知ってたから・・・。誰かれかまわず
一馬のことが好きだなんて、言えるわけないでしょ。」



確かに俺が呼び出される理由に、『と仲がいい』というものもあった。
根暗なくせに生意気だとか言われて。も・・・知ってたのか。



「私も、一馬が好き!ずーっと好きだよ!!」



は俺に抱きついたままで表情が見えない。
俺の顔はもう真っ赤ですごいことになっているんじゃないだろうか。
それでも、俺はこの幸せをかみしめる。を強く抱きしめる。

勇気を出してよかった。英士と結人がいてよかった。
俺はずっとの側にいるし、もきっと側にいてくれる。
これからもこの幸せは続いていく。そう思えた。













「・・・・・。」




は俺に抱きついたままでいる。
ここは俺の部屋で、こんないい雰囲気で。
何もないって方がおかしいんじゃないか。
抑えてきた理性をはずしてもいいんじゃないか?

俺は意を決して、の肩を掴み・・・



っ・・・「
やっぱり一馬って安心するね!!」」



掴もうとして脱力する。安心ですか・・・。



「ん?今何か言いかけた?」

「・・・いいえ。何も・・・。」

「・・・?変な一馬!!」



が笑う。俺も笑う。
俺の理性は、当分抑えなきゃいけなそうだ。
コイツの無防備さに果たしてどれだけ抑えられるだろうか。結構不安。





でも、それでも、がいれば





俺の側にがいてくれれば、





そんな不安さえも、幸せだから。


















TOP