どうでもいい奴らには、決して見せることのなかった自分の本音。







けれど君になら、本音を見せてもいいとそう思ったんだ。














君の本音と僕の嘘













「郭〜!ここ教えてくれよ〜!」

「あ!郭くん!私も私も!!」

「いいよ。どこがわからないの?」





真面目で優しい優等生。
俺の中学校での『肩書き』。





「郭くんって優しいよね〜!勉強もスポーツもできるし!格好いいし!!」

「はは。そんなことないよ。」





はっきり言ってクラスの奴らなんてどうでもいい存在で。
だから、奴らが宿題をやってなくて、先生に怒られようとどうでもいいんだけど。
その本音を出しても、もめ事になるだけ。そんなの、バカみたいでしょ?





「でも俺、放課後からユースの練習あるから、それまでだよ?」

「だよな〜!おっしゃ郭!俺頑張るからなんとかしてくれよ!」

「郭くんジュニアユースの選手だもんねぇ〜。やっぱりスゴーイ。」





真面目で優しい優等生を演じてるおかげで、たいていのことは見逃される。
クラスの奴らの相手をするのは面倒なときもあるけど、メリットもあるからね。





面倒だけど、扱いになれてしまえばなんてことはない。そう思ってた。・・・けれど。



















「はーい!後期学級委員は郭くんがいいと思いまーす!!」

「キャー!それいいかも〜!!」



・・・はあ?!
ちょっと待ってよ。冗談じゃない。そんなことしたらユースの練習に行けないでしょ?



「・・・悪いけど、俺はユースの練習があるから。遅くまで残れないし。
そんな責任のある仕事にはつけないよ。」

「大丈夫だよ!郭くん!私がちゃんとフォローするし!!」



女子でもう決まっていた後期学級委員が言う。
はっきり言って、彼女の言葉に信用性が持てない。



「皆、郭くんが適任だと思うよね〜?!男子もそう思うでしょ??」

「いいと思いまーす!!」

「・・・だなー。郭だったら頭もいいし、いいんじゃねー?」

「じゃあ郭くんで決定〜!」





俺の意見を無視して、話がどんどん進んでいく。
本当に冗談じゃない。俺はこんなクラスよりも、ジュニアユースの方が、サッカーの方が大切なんだけど。

けれど、もはや俺に選択肢はなくて。
これ以上、何を言ったって覆ることはないんだろう。言ったところで余計なもめ事になるだけ。



あーあ。『真面目で優しい優等生』を演じすぎた。
だからクラスの奴らも調子に乗って、こんなことまで押し付けるようになったんだ。
うまく演じて、何事も起こらず、起こさず、そうやって中学生活を過ごしていこうと思ってたのに。
俺としたことが、『いい奴』を演じすぎた。



・・・まあいい。
変わらず『いい奴』を演じていれば、誰かが助けてくれるだろう。
そのための『優等生』だったんだから。





けれど、その思惑も数日後には、見事打ち砕かれることになった。
























「あれ?郭くんまだ残ってたんだ??」





日も傾いて、生徒が下校した頃。
早速担任に頼まれた作業をやるはめになった。しかも、一人で。

俺を推薦したクラスの奴らは、さっさと帰って。
俺と一緒に学級委員をやることになった女子には、昨日、告白された。
丁重にお断りすると、彼女はもう、俺と一緒に学級委員の仕事をすることがなくなった。



だから、一人で。



俺を推薦したクラスの奴らも、フォローすると言って自分の都合が悪くなると
逃げ出したもう一人の学級委員も、どういう神経をしてるんだろう。
仕事を放り出そうともしたけれど、やっぱり俺にも多少の責任感ってものがあって。
頼まれたことを途中で放り出すということが出来なかった。



黙々と作業を続けていた俺に、別の声が聞こえてきた。





「・・・さんこそどうしたの?」

「あ、うん。私は忘れ物しちゃって。」

「そうなんだ。俺はこの書類をまとめるように、先生に頼まれちゃって。」

「え?郭くん一人で?」

「ああ、うん。まあね。」





話し掛けてきたのは、同じクラスの 
同じクラスってだけで、ほとんど喋ったこともない。印象もそんなに強い方じゃない。





「皆ひどいね。無理に郭くんに学級委員やらせといて。手伝いもないんだ。って、私もか。」

「・・・はは。皆忙しいみたいだしね。」





内心すごくイラついてたけど、それでも『優等生』を演じる。
今となっては、それを演じる必要さえあるのか疑問になってきたけど。





「郭くん、ユースの練習あるんじゃないの?」

「・・・あるよ。」

「じゃあ行きなよ。今からでも間に合う?」

「え?」

「私、この作業やっておくよ。担任に渡せばいいんだよね?」

「そうだけど、けど・・・」

「私、暇人だから大丈夫。大切なんでしょ?ジュニアユースの練習。」

「・・・じゃあ、頼んでいいかな。」

「うん。OK!行ってらっしゃい。」





思ってもない申し出に、素直に従った。
彼女は俺に助けを求めたこともないし、話したこともほとんどない。
だから、俺を助けてくれる理由が見あたらなかったけど、
この面倒な作業をしてくれるっていうなら、頼まない手はないでしょ?

その日、練習時間には遅刻してしまったけれど、なんとか参加はすることができた。
























「郭。すまないが、これをクラス分で仕分けして、ホッチキスで止めておいてくれ。
明日のHRで配るから。」





昼休み、担任からまた仕事を頼まれる。
こんな仕事、俺じゃなくて日直とかに頼めばいいのに。
学級委員ってこんなに仕事頼まれやすいんだ。やっぱり面倒くさい。

ていうか、俺は今日もユースの練習があるんだけど。
俺はその場にいた、数人の友達を見る。



「いやー。大変だな郭。うちの担任って大体学級委員に仕事頼むから。」



ああ、それを知ってて、俺に学級委員を押し付けたんだ。コイツは。



「俺も手伝ってやりたいけど、今日は用事あってさ〜。」



昨日の作業もそういって、何もしていかなかったよね。



「郭ならそんな作業、すぐ終わるっしょ?」



こんな作業、誰がやっても速い遅いなんてないと思うよ?





人に頼るときは頼りきって、自分に面倒になると逃げ出す。
まあそれが人間の本音だろうし、仕方ないとは思うけど。
それでもこいつらの態度には、もう呆れて何も言えなかった。

ていうか、俺の今までの努力って、実は結構無駄だったのかな。
もめ事はない。けど、明らかに利用されてる気さえするよ。










放課後、俺は資料分けの準備を始める。
急いでやれば、ユースの練習にも間に合うはずだ。



「郭くん。また一人?」

「え?さん。」

「今日もユースの練習あるんでしょ?私がやるよ。」

「いいよ。昨日も頼んじゃったからね。何とか一人で終わらせられるから。」



クラスの奴らの態度にイラついていても
まだ『優等生』を演じてる自分がいた。



「じゃあ、手伝うよ。二人でやった方が速く終わるでしょ?」



さんはそう言って、積み上げられた資料に手を伸ばす。
昨日からこの子は、何で俺を手伝うんだろう。こんな作業、面倒以外の何者でもないのに。
そもそも、俺を頼ったことのないこの子が、俺を助けるメリットって何だろう。



さん。」

「ん?」

「どうして昨日も今日も、手伝ってくれるの?
俺と話したことなんて、ほとんどなかったよね?」

「えー。うん。まあクラスメイトが困ってるの、ほっとけないじゃん?」

「・・・。」

「というのは、まあ建前で・・・。ちょっとした罪悪感からかな。」

「罪悪感?」

「だって、郭くん学級委員やるの嫌だったんでしょう?
郭くんの表情みて、わかってたのに、私も賛成に挙手しちゃったからさ・・・。」





・・・わかってた?俺が学級委員をやることを嫌がっていたことを?
ていうか、俺はあのとき、笑って受け入れた(ように見せかけた)んだけど。
そこから、俺の気持ちが読み取れるわけないでしょ。





「・・・嫌だなんて思ってなかったよ?皆が推薦してくれたんだし、信頼されてるってことだしね。」

「・・・ふーん。」

「だからさんも、気にすることなんてないよ。」



我ながら、キレイゴトを並べるのがうまいと思う。
笑って、また『優等生』を演じる。けれど、彼女はまた予想外の言葉を口にする。



「郭くん、疲れない?」

「何のこと?」

「皆に同じように接して、同じように過ごして、同じように笑って・・・。」

「・・・!!」



何を、言ってる?
俺と話したこともなくて、親しくもないさんが、どうしてそんなことがわかるの?



「私、昔『いい子』でいようとして、いつも笑ってた。誰に対しても、何か嫌なことがあっても
ずっと同じ笑顔で笑ってた。それが誰にも嫌われない、平和な過ごし方だと思ってたから。」



俺と、同じ?
多少、考え方は違うけれど。



「けどさ。それってすごくつまらない生き方だったんだよね。
自分の本音も出さずに、ただ平和に過ごしたって、楽しくもなんともないことだったんだよね。」



「・・・。」



「郭くんってさ。ユースの練習に行くとき、すごい嬉しそうな表情なんだよね。
だから、この学校以外に楽しい場所があるんだろうなって思ってた。」



そう。俺にとって、学校は『どうでもいい場所』。
ジュニアユースの練習は『自分の夢がある場所』。
二つの場所の価値は歴然としてた。俺のする表情も、きっと違うんだろう。



「そんな場所があるなら、学校で本音なんて見せなくてもいいのかもしれない。
けどさ。学校って、1日のほとんどを過ごす場所じゃない?
その場所で、自分を殺して、我慢ばっかりじゃ息がつまっちゃうよ。今の・・・郭くんみたいに。」





俺の心の内が、予想外の彼女に見透かされていたことに驚いていた。
けれど、表面上は動揺することなく、資料にホッチキスを止めていく。


誰も見抜いていなかった俺の嘘を、彼女は見破っていた。
話したことがほとんどなくても、俺との接点なんてほとんどなくても
俺と同じように彼女も、他人を欺いていた過去があるから。





「・・・なんて、うん。余計なお世話だね!忘れて!」





確かに今の俺は、結構イラついてるし、参ってる。
学校は1日のほとんどを過ごす場所か・・・。確かにそうだね。

俺の嘘も見抜けない、バカなクラスメイトだったら
本当の自分なんて見せる気なかったけど・・・。











「本当、余計なお世話だよ。長々とよく語ってくれたよね。
普段の俺が素だったらどうするの?すっごい失礼だよね。」

「うっ・・・。そうでした。ゴメン。」

「・・・まあいいや。俺、ユースの練習行くからさ。
これやっておいてよ。さん、どうせ暇なんでしょ?」

「え?さっきは大丈夫って・・・」

「あはは。だって俺に罪悪感感じてたんでしょ?だったらやってくれるよね?」

「それもさっき、気にしなくていいって「
やってくれるよね?」・・・はい。」













君だったら。











俺の嘘を見抜いた君にだったら、本当の自分を見せてもいいかもしれない。


























「ちょっと郭くん!この量はどうなの?!
一人でできる量じゃないから!!」

「大丈夫!ならできるよ!頑張って!!」





あれから。
相変わらず、ひっきりなしに頼まれる担任からの仕事を俺はそつなくこなしている。
隣には下僕優秀な、俺の友人。彼女が手伝ってくれるおかげだね。





「そうやって言ってさー。前はちょっと間違えたくらいで怒るしさ!」

「あはは。あんな簡単な書類を書き間違えるなんて、バカなことするからでしょ?
俺がやってることになってるんだから、あんまりバカなことしないでよね。」

「うっ・・・ひどい・・・黒王子めっ・・・」

王子?あんまり褒めないでよ。

「褒めてないから!」





頼まれる仕事をがしてくれる(強制ともいう)おかげで、
俺も遅れることなく、ユースの練習に向かうことができていた。
なんだかんだ言って、は俺の仕事を毎回引き受けてくれていた。



「まあまあ。今日は俺も少し手伝ってあげるからさ。」

「少しですか。郭くんの仕事なのに、『手伝ってあげる』ですか。」

「何その意地悪い言い方。文句あるの?襲われたいの?

「嘘です。ごめんなさい。私が悪かったです。」



は慣れたように、黙々と作業を始める。
その真剣な表情を俺はじっと見つめる。



「・・・・。」

「・・・郭くん?」

「・・・・。」

「・・・郭くーん?」

「・・・・。」

「郭くん!遊んでないで手を動かす!」

。」



俺は真剣な表情でを見る。
その表情に気づいたもまた、俺を見たまま動かない。いや、動けないのかな?



は、こうやって仕事頼まれるのは嫌?」

「・・・嫌だよ!面倒くさいもん!」

「ふーん・・・本当に?」



顔を赤くして、が言う。
俺はを見つめたまま、作業をしようとシャーペンを持ったの手を握る。



「っ・・・何してんの?郭くん。」

「俺とこうやって話せるのに?俺はといたいけど。
は嫌なんだ。俺が仕事頼むのってそういうことなんだけど。」

「だっ・・そんなこと言って・・・大体私一人で仕事してるじゃん!
郭くんが一緒にしてくれたことなんて、ほとんどないじゃん!」

「じゃあ、やっぱり嫌なんだ?
だったら別に断ってくれてもいいよ。どうせ俺への罪悪感とかそんなんで手伝ってくれてるんでしょ?
それ以外の気持ちがあるんだったら、嫌だなんて思わないだろうし。」

「・・・っ・・・」









聞きたい。聞かせて。君の本音を。
ただ単に君が優しいから?俺への罪悪感から?
同じ思いを持っていた、同類意識から?それとも・・・。















「・・・嫌じゃ・・・ないです・・・。」
















君が言う。顔を真っ赤にして。
ああ。そうか。それが君の本音。
言葉にしなくたってわかるものなんだね。











「へー・・・。そっか。じゃあ俺も心置きなく仕事頼めるね。」

「え?」

「だって仕事嫌じゃないんでしょ?だったらこれからもどんどん頼むね。」

「っ・・・郭っ・・・はめられたー!!」

「え?何?何の話?」





自然と笑みがこぼれる。
それはクラスメイトに見せる『作り物の笑顔』なんかじゃなくて。
きっと周りから見たら、『優しい』とは程遠い、意地の悪い笑みなんだろうけど
これが俺の本当の顔だから。一部の人にしか見せない、本当の笑顔だから。





だけど、本当だよ?

俺の嘘を見抜いた君と、一緒にいたいと思うのは。

俺の嘘を見抜いた君の、本音が見たいと思うのは。





そう思うのは、。君だけなんだから。










これからも、少しずつでいい。君の本音を聞かせて?










これからもずっと、君の側で。























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