「天城!こっちこっち!」 待ち合わせた駅で、キョロキョロと辺りを見渡す体格のいい男。 そいつを一番に見つけた今井が、手を振ってその名前を呼ぶ。 あまりにも久しぶりな中学時代のチームメイト、天城燎一は俺たちの存在に気づくと足早にこちらへ駆け寄った。 チームメイト 「悪い、遅れたか?」 「いいや全然!俺たちもさっき集まったところだから!」 「久しぶりだな天城!またでかくなってねえ?」 中学のとき、同じサッカー部だった天城。 数年前、天城はひとり母親と妹がいるというドイツへと旅立っていった。 その天城が久しぶりに日本に帰ってくるいう話を雨宮監督から聞いた今井が せっかくだからと高校が同じ俺たちに声をかけ、天城に会うことを提案した。 出会った頃の天城はいつも一人でつっぱしって、周りをみない暴君のような男だったから 俺はものすごく嫌な奴と認識していて、まあはっきり言えばコイツのことが嫌いだったのだが。 けれど天城にもいろいろあって、嫌なところばかりじゃないと知り、最終的には根は優しいいい奴だと思えるまでになった。 ・・・しかし久しぶりに会った天城は俺の一つ下とは思えない風格だな相変わらず。 「西尾さん、どうかしたんですか?」 「あ、いや、別に?」 「とりあえずどっか入ろうぜ!天城のドイツでの話も聞きたいし!」 「そんな話すほどのこともないと思うぞ。」 「まあまあ。俺らにとっちゃ興味津々なんだよな!ドイツでの生活も、サッカーも!」 俺と坂本、今井は偶然同じ高校に入り、サッカーを続けてはいるけれど 天城のようにプロになることを目指しているわけじゃない。 でもサッカーが好きなことに変わりはないから、プロを目指し日本を発った天城の話は確かにかなり興味深い。 適当な店に入って、適当に注文をすると、今井と坂本が矢継ぎ早に天城に質問をなげかける。 天城は二人の興奮した様子に苦笑いを浮かべながら、ひとつひとつ静かに答えていく。 ・・・本当に変わったよなコイツ。昔は「俺に触れたら火傷するぜ!」並みな人の寄せ付けなさだったくせに。 「なんかもうすっかり慣れたって感じだよな。日本とドイツって生活習慣とかかなり違いそうなのに。」 「まあ違うけど・・・慣れてしまえばなんてことない。」 「ドイツ語だって覚えたんだろ?すげー!」 「それも慣れだ。一応、事前に勉強もしていたし、毎日聞いていれば自然と身につくから。」 昔の天城のままだったら絶対思わないけど、今の天城を見てるとなんだかすごくカッコよく見えてしまう。 いや、もともとコイツの実力自体は認めていたんだけど。 なんていうか、こう、人間として男として、憧れるような感じだ。 俺がそんなこと言っても気色悪いだけだから、絶対に口になんかしねえけど。 元々でかかった体もさらに大きくなってやがるし。 俺らのガキっぽい質問にも、笑いながらサラリと答えるし。 なんだなんだ、同じチームメイトだったていうのが嘘みたいに別世界の人間みたいだ。 「お母さんと妹さんとはうまくいってるか?」 「ああ、しばらく会ってなかったのが嘘みたいに。 母親は俺がサッカーをするのを応援してくれてるし、イリオン・・・妹もよく懐いてくれてる。」 先ほどまでの大人びた笑みが消えた。 そして、代わりにこっちが照れてしまうような優しい顔。 本当にあの頃の天城とは別人だ。なんだ、そんな顔も出来たのかよ。 「ドイツでの生活、充実してるみたいだな!」 「ああ。」 「なんかもう別世界の人みたいに思えてきた・・・!天城カッコよすぎだし!」 「なんだよ、それ。」 俺と同じことを思っていたらしい今井の言葉にも動じず、呆れるように笑みを浮かべる。 ちくしょう、何だその余裕の笑みは・・・!やっぱカッコよくなってやがるよなコイツ・・・! それから店を出て、俺たちは次に約束していた雨宮監督のところへと向かう。 監督もこの天城を見て驚くかな。いや、あの人だったら動じないか。 「あ、悪い。ちょっと待ってくれ。」 「ん?どうした天城。」 その途中、雑貨店に目を留めた天城は俺たちに声をかけると、そのまま中に入っていってしまった。 天城についていくように店に入った俺たちは、奴が手にしているものを見て唖然とする。 「天城・・・何それ。」 「え?ああ、いや・・・」 天城の手にあるものは、女子が欲しがるような可愛いキャラクター付きのストラップ。 え?何?天城っていつの間にそんな趣味が・・・?!いや、元々だったりするのか?!ええ?! 「イリオンが好きなんだ。日本のアニメを偶然見て、でもあっちにはあまり売ってないから。」 「あ、ああ!イリオンちゃんのか!」 「びびったー!」 そのストラップを手にして、何かを浮かべるように微笑むとそれを持ってレジへと向かった。 ガタイの良い男が、可愛いキャラクターもののストラップを買う光景に俺たちは顔を見合わせて吹き出した。 「天城ビビらせるなよー!そういう趣味があったのかと思っちゃったじゃん!」 「そういう趣味って何だ・・・。」 「しかし、天城も勇者だよな。妹のためとはいえ、あれを一人でレジに持っていくなんて・・・ よっぽどイリオンちゃんが大事なんだろ?」 「大事っていうか・・・普通だろ?」 照れもせずに当たり前というように言葉を告げた天城に、俺らはからかう気も起きなくなって。 あまりにまっすぐな問いかけに、あれ?俺らの方がおかしいのかという空気にさえなりかけた。 「・・・イリオンちゃん、喜ぶといいな!」 「そうだな。」 あ、またその顔。 男らしい笑みから、優しそうな力の抜けた笑み。 お前イリオンちゃんの話するとき、どんな顔してんのかわかってねえだろ。 ・・・まあ、でも。 「そういえばさっきのキャラクターのグッズ売ってあるとこ、俺知ってるぜ?」 「本当か?!」 「・・・っ・・・」 カッコいいだけのお前よりも、そっちの方がいいかもな。 「天城。」 「何だ?」 「雨宮監督のところ行ったら、久しぶりにサッカーしようぜ。 あっちの方にグラウンドあるからさ。」 天城が驚いたように、目を見開いてこちらを見た。 それからすぐに一言。 「ああ、そうだな。」 やっぱり冷静に穏やかに、俺なんかよりもずっと大人びた笑みを返した。 でも天城。俺、わかっちゃったからな。 お前、そんなカッコよくなってても、サッカーがうまくなってても。 別世界の人間なんかじゃねえよな。 俺がコイツを嫌ってたときだって、誰もよせつけないって顔しながら乳母さんのこと大切にしてた。 そして今だって妹のために、女が買うようなキャラクターもののストラップを買って それが普通だとか言って、無意識のまま気の抜けた顔を見せる。 カッコいいお前も憧れるけど、そんなお前も知ってる方が・・・ちょっと、まあなんていうか、嬉しい気がする。 久しぶりに会って、大人びた天城を遠くに感じたのは最初だけで。 それから俺たちはまた、中学の頃のようにたくさんの話をした。 今日の終わりには距離なんて感じることもなく、また会おうなと笑って別れた。 「・・・なあ、今井、坂本。」 「なんすか?西尾さん。」 「今日何回イリオンちゃんの話題出た?」 「・・・かなり。」 「・・・やっぱり西尾さんも気づきました?」 「ふっ・・・はは、あははは!だよな!さりげなくイリオンちゃんの話しすぎ! 絶対本人気づいてねえよな!」 家族思いとは別に、アイツ絶対シスコンだ。しかも自分で気づいてない。 無自覚のシスコンなんて、イリオンちゃんが嫁に行くことにでもなったら天城はどうするんだろう。 泣くかな?アイツが?!なんて天城にとっては余計なお世話な話をしながら、俺たちも帰路についた。 TOP |