「なあ、お菓子作ってきたんやけど食べてー!」 「ちょっと待って、私もケーキ作ってきたわ!」 「あのダンボールが重くて運べないんやけど・・・」 「ねえねえ、今度の日曜日さー・・・」 毎日毎日女の子に囲まれ、お菓子の差し入れをもらい 重いものが持てないと頼りにされ、デートの申し込みを受ける。 周りの誰もが羨むモテモテ人生や。 「あーもう、本当に惜しい!」 そう、やけどそこには一つ惜しいことがあって。 「が男やったら絶対彼氏にするんやけどなー。」 女の子にモッテモテの私は、 「優しくて格好よくて、女の気持ちもわかってくれる彼氏なんて最高やん?」 騒いでる皆と同じ、女やということや。 乙女ロミオと男前ジュリエット 「もーええわ。嬉しくないし。」 「何言うてんの。めっちゃ褒め言葉やないか!」 「そういうのに喜ぶのは男子やろ?私は女の子やもん。」 「まったまたー!そんな格好いいのにー!」 「なんやその『何、冗談言うてんの』的なノリは!私は女やからね!」 同じクラスの友達が見上げるほどの長身。 部活に明け暮れているせいでしっかりとついている筋肉。広い肩幅で体格もいい。 自分が優しいかは知らないけれど、面倒ごとが嫌いやから滅多なことでは怒れへん。 まあだからちょっとは格好よく見えるのかもしれん。 でもな、どんなに私が格好いいと言われても私は女やねん! 女の気持ちもわかってくれるって当然やん。何回でも言うで、私、女やからね! 「そういや、この前駅前でナンパされてなかった?」 「・・・な、何でそれを・・・!」 「偶然見かけてん。相手、すっごい綺麗な顔しとったなあ。」 「・・・まあ、そうやね。綺麗な顔してたわ。」 「女やったけど。」 「そうやねん!何であんな綺麗な人がわざわざ私にナンパしてくんねん! しかも私は女ですって言うたら、まっさかーって笑われたんやけど!」 「アンタが格好よすぎて信じられなかったんやろうなあ。」 「あかん、泣きたくなってきたわ・・・。」 「泣いてもええで。きっとそんなアンタをなぐさめたいって子がたくさんおるわ。全員女やろうけど。」 「そんなこと言われたら泣けへんやん!」 自分が元々中性的な顔立ちだということは知っていた。 けど、制服着てないと女にも見られへんってどういうこと? そりゃあ自分にスカートとかは似合わないと思ってるから、ラフな格好しかしてないけど。 それでもちょっとしっかり見れば、男か女くらいわかるやろ?!わかるよな?! 「どうしたん?!」 「落ち込んでるー・・・私でよければ相談のるで?!」 「そんな切なそうな目で見ないで!こっちまで悲しくなってくるやんか!」 「その顔はあかん・・・!禁断の道に入り込んでしまいそうや!」 ・・・ちょっと危ない意見がまざっていたのは置いといて。 どんな理由であれ、好かれることは素直に嬉しいと思う。 ちょっとしたことでもキャーキャーと騒ぐ皆は可愛いとも思ってる。 でもそれと女にばっかりモテて嬉しいかっていうのはまた話が別や。 そのせいか元々かは知らへんけど、私、クラスの男子に女扱いされたこともないんやで? それどころか「男として憧れ」宣言されたこともある。だからな、皆おかしいんや。 私は女やって言うてんのに!! 「・・・ありえへん・・・!」 「いや、ありえるありえる。ていうかピッタリや!」 「何でこんなことに・・・!!」 木の葉色づく秋の午後。もうすぐこの学校の文化祭。 学校中が文化祭の準備に勤しんでいる。 風邪で学校を休んでいる間に決まったクラスの出し物は劇。 配役も脚本も任せて!と自信満々に胸を叩いたらしい友達。 「・・・格好よすぎ・・・!!グッジョブや私!!」 「いやいやいや、バッジョブや!!」 「バッジョブ?ああ、バッドってことか。なんやそれ面白くないわ。」 「バッドやバッド!何が悲しくてこんな格好で大勢の前に出ないとあかんの?!」 友達が用意した脚本はロミオとジュリエット。 けれどそれだけじゃつまらないからと、ちょっとした趣向を用意したらしい。 それが男女逆転ロミオとジュリエット。 そしてロミオを演じる女子は満場一致で決定。それが風邪で休んでいた私だというのだ。 衣装合わせという名目で好き勝手に髪も服もいじくられ、立派な即席ロミオの誕生や。 「大丈夫、想像以上に格好ええから!」 「それがあかんのやろー!もういやや!」 「まあまあロミオ。よかったな、演劇部に衣装借りられて。 ホラ、これ台本やから。ちゃんと覚えるんやでロミオ。」 「なんやその適当ななぐさめ方!いや、なぐさめてもないやろ?!」 「どうせアンタのことやから、他の女子に涙目でお願いされたら断れへんやろ? そこで嫌がってても、皆にお願いされて渋々折れる。結局同じことやで。」 「う・・・。」 あまりにその通りすぎて、言い返すこともできなかった。 確かに私は涙に弱い。後、押しにも弱い。 ここでロミオを嫌がってても・・・結局はやらなあかんことになるんやろうなあ。 「・・・はあー・・・。」 仕方がないと諦めて、大人しく教室の隅で台本を開く。 うげ、こんなにセリフあるんか。 ・・・キザったらしい男やなロミオ。でも一度くらいならこんなセリフを言われるのもええかも。 まあ・・・言われることはないやろうけど。ていうかむしろ私が言うんやしなこのセリフ。 「はー・・・。」 「ため息つきすぎやで、。」 「・・・ため息もつきたくなるわ・・・ってうわっ!!」 「折角なんやから楽しみながらやればいいやん。 ため息ばっかりついてたら幸せ逃げていくって言うし。」 「だ、誰?!」 「何言うてん、ノリックさんや。」 「・・・はあー?!」 思わず間抜けな大声で叫んでしまった。 いや、知ってるけど。ノリックと言えば同じクラスの吉田光徳や。 そりゃあ知ってるわ。けど・・・けど、 「何やその格好・・・!」 「に言われたくないわ。」 何やこの可愛らしい女の子は・・・!! 「僕、ジュリエットらしいわ。」 「なっ・・・なあ・・・?!」 「何やろうねこの縦ロールとか、笑い取ろうとしてるしか思えへんわ。」 私がロミオに仕立てられたように、ノリックも縦ロールのウィッグとドレスでその姿はまさにジュリエット。 ていうか可愛すぎやろ・・・!どこからどう見ても女にしか見えへんかったわ・・・! 「・・・へこむわー。」 「何が?」 「似合いすぎやわジュリエット。」 「それを言うならお前もやでロミオ。」 ああもう何が悲しくて、こんな可愛らしいジュリエットと共演せなあかんねん。 しかも男やでこのジュリエット。私なんかがどうあがいたってこの可愛さにはならへんわ。 友達が作った台本は、世間一般に知られているロミオとジュリエットの話に沿いながらも 悲劇ではなく、喜劇に変換するという半オリジナルの力作。 その台本は大半がロミオとジュリエットの会話で占められる。 ロミオとジュリエットって敵対する家の子供たちやろ。 何でこんなに二人でボケとツッコミしてんねん。 まあそんなことは置いといて、主役二人は重要だからと 大道具を作ったり、衣装を直したりということは免除された。 その代わり本番でミスしたら袋叩きやで、なんて脅しがおまけでついとったけど。 『初めまして。わたしの名前はジュリエット。貴方のお名前をお聞かせ願えませんか?』 『初めまして美しい人。私の名前はロミオ、以後お見知りおきを。』 そんなわけで私とノリックは今、別室でセリフ覚えと演技の練習をしてる。 なんやこのセリフ、何が美しい人や。ジュリエットって言ってるやん、名前で呼んでやれや。 そりゃあ確かに目の前のジュリエットは腹立つほどに可愛いけどな! 『ロミオ・・・?まさかとは思いますがモンタギュー家のご子息もそのような名前だったはず・・・』 『・・・まさか、今はキャピェ・・・キャピョ・・・キャッピッレッ・・・何やこの名字! 言いにくくてかなわんわ!さすが我がモンタギュー家の敵や!・・・あ。』 言っとくけど台本やからね?私がカミすぎてるわけやないからね? まあでも確かに言いにくいわキャピ・・・キャプ・・・キャピュレット。 ちゅーか・・・あれ?次のセリフはノリックのはずやけど。 「・・・っ・・・」 「・・・何笑ってんねんノリック!」 「だって・・・おかしいんやもん・・・」 「おかしないわ!こんな真剣にやってるのに笑うとは何事や!」 「すまん、すまんて・・・!」 謝りながらも、全然笑いこらえられてないんやけど。 大体おかしない?何でロミオがこんなアホキャラなんや。 「・・・はー。」 「またため息か?あー、でも今のは僕のせいか。ごめんて。」 「・・・いいよなあジュリエットは。」 「またネガティブモードか。どうしたんやロミオ。」 また可愛らしい顔してホンマにもー。悩みの一つはアンタのその可愛さや。 でもなジュリエット。私がアンタを羨ましく思う理由はもうひとつあんねん。 「知っとる?ノリックって女子に人気あるんやで。」 「え?そうなん?嬉しいなあ。」 「何とぼけてんねん。告白だってたくさんされてるくせに。」 「まあそれはそれや。それで何や?も告白されてるやろ?女の子にやけど。」 「やかましわ!」 そう、こんな可愛らしいジュリエットやけど、 結局のところは女の子にモテモテやったりするんや。 それはノリックの綺麗な顔だけが原因やなくて 女の子に優しいところとか、結構面白いところとか、サッカーがうまいとか まあいろんな要素があるんやろう。 「そんなノリックがジュリエットをやっても、人気があがるだけやん? アンタのキャラ的にノリック幻滅ー!なんて声は多分ないやろ?」 「どうなんやろね。ちゅーかコメントに困るわその質問。」 「けどな、私がロミオをやったらどうなるかわかってるやろ? また女子にキャーキャー言われて、男子たちは私を遠ざけるか尊敬するかのどっちかや。 私はこれ以上男らしくなりたくないねん・・・!」 「僕は別にが男らしいとは思ってないけどなあ。」 「ええねん、そういうフォローしてくれって言うてるわけやないねん!」 じゃあどうしろっちゅー話やって言われそうや。 ええんや、どうせ八つ当たりやもん。グチりたかっただけやもん。 「そんなに嫌なら僕、言うてきてやろうか?ロミオ役、誰か別の奴に・・・」 「・・・アンタはホンマにいい奴やなあノリック。人気があるのわかるわ。」 「そんな褒めんといて。」 「でもな、一度引き受けたからにはやるわ。後、断ったときの女の涙が怖いねん。」 「ホンマに苦労してるなあ。それ、普通男が言うセリフやで。」 ノリックの笑顔は癒されるなあ。 私もいつかこんな女の子になりたいわ。多分無理やけど。 「ノリック、じゃあダンスの練習や!いくで!」 「ええよ。突然張り切りだしたな。」 「へこむのも早ければ、立ち直るのも早いねん!」 「そうか、なら頑張るで。」 「任せて!」 そう言って張り切りながら席を立ってみたら、 自分の目線よりも下にノリックの頭があって、またへこんだ。 「へこむの早すぎやで、ロミオ。」 「そっとしておいてやジュリエット。」 何でこんなニョキニョキと伸びたんや身長・・・! しかも今もまだ伸びてるとかね・・・!もう勘弁してや! 『ああロミオ、貴方はどうしてロミオなの?』 教室がざわめき、なにやらピンク色のオーラが溢れ出して見えるのは私の気のせいやないだろう。 「ちょ、ちょっとやばくない?!何でノリックあんなに色っぽいねん! 男にときめかされるとは思わんかったわ!」 「あの切ない表情がなんともいえん・・・。」 「やっぱりノリック最高!可愛いよー!」 ノリックの見事な演技にやられる奴らが多数。 それはもう男も女も関係なく見境なしや。 そりゃそうやろうなあ・・・。私も目の前でどれだけジュリエットに心奪われそうになったことか。 『どうしてって生まれた時から僕はロミオやで? ロミオはロミオであってロミオ以外の何者でもない!』 どうや、これが私の練習の成果や! このとぼけた顔、どっからどう見てもアホロミオや! 「ちゃうちゃうちゃう!意味ちゃうわ!雰囲気ぶち壊しやん!」 「なんやさっきからあのアホロミオは!」 「ちゅーか何でたまに関西弁になるねん!」 ナイスツッコミ・・・! でもあれやな。なんやすごく悲しい気分になってくるな。 『けれど、僕が生まれた時のことも生まれたこの家のことも関係ない。 全てを捨てても貴方と一緒にいたいのです。ジュリエット。』 そしてこれが本気ロミオや! このキザったらしいセリフを照れずに笑わずに言うのにどんだけ苦労したと思っとんのや! 「ギャー!!ーーー!!」 「一緒にいてー!ロミオー!」 「負けた!何あの格好いい男!俺負けたー!!」 ああ、予想してたとはいえ悲しい気分になるのは変わりないんやな。 私もノリックと同じ声援が欲しい・・・なんて思ったらおかしいやろうか。 「二人ともお疲れ!完璧だよ!」 クラスメイトに見せた練習のワンシーン。 厳しく見ていた監督もご満悦のようや。ほっと安堵のため息をつく。 「完璧やって。やったなノリック。」 「当たり前や。どれだけ練習したと思てんねん。」 高く上げられた手に、自分の手を合わせる。 パシンと良い音が響き、お互い笑いあう。 「ちょっと休憩いかへん?」 「ええね!ノリックおごってや!」 「仕方ないなあ。じゃあ次はのおごりってことでどうや?」 「ええで、覚えとくわ!」 ノリックと一緒にいるたびに、彼の可愛さと自分の男らしさを思い知らされ へこんでは立ち直りを繰り返していた私にノリックはよう付き合ってくれてるわ。 ホンマ、いい奴やなあノリック。 ただのクラスメイトだったノリックは、私の中で確実に株をあげていた。 男みたいで女にばかりモテる私と、女にもなれるような綺麗な顔をしたノリック。 ・・・まあノリックは男にも女にもモテるけど。 対照的すぎる私たちだったけど、だから逆に言いたいこと言えてスッキリできたのかもしれへん。 「・・・あ、ちょっと先行ってて。ロミオの剣、持ってきてしまったわ。 さっき直すって言うてたんやった。」 「一緒に戻ろか?」 「ええわ、あれな、いつものベンチのところな!私、オレンジジュースでええから!」 演技中から腰にさしていた小道具に気づき、私はノリックと別れ教室へと引き返した。 皆、休憩に入っているのか教室に入る前の廊下でも数人のクラスメイトが談笑している。 「はまりすぎやな、ロミオとジュリエット!」 「これはいけるで!大賞も狙える・・・!」 「あいつら本当性別間違えてんじゃないかって気がしてきたわ。」 ふふん、皆絶賛の嵐やな。 これが私とノリックの本気の練習の成果や! 最後の一言は余計やけどね! 「そういや二人で出て行ったな。最近、めっちゃ仲よさそうやし。」 「二人して演技の愛が本物の愛になったんやない?よくある話や。」 「・・・せやな。よくある話や。」 「そうや、よくある話・・・ぶはっ!!」 「「「あはははっ!ないわ!それはないわ!!」」」 彼らの前に出て行こうとした足がピタリと止まる。 「だってやで?女にモテまくってる男の憧れやで?!」 「何が悲しくて自分よりでかくて、女にモテる女を選ぶっちゅう話やわ。」 「しかもノリックやしな。わざわざ選ばんでいいとこにはいかへんやろ。」 楽しそうにケラケラと響く笑い声。 こうして男子にからかわれることはよくあった。 その度に私は怒って、お前らふざけてんやないでってあいつらを蹴り飛ばしにいくんや。 もはやそれは日常の一部になっていて、そういう話を聞いた後にへこみはするんやけど やっぱりすぐに忘れて立ち直って。その後また男らしいなんて言われて怒る。それの繰り返し。 なのに、なぜか今は足が動かない。ふざけるなって声も出ない。 ただ胸がズキズキと痛んだ。 「あー、やー!」 「さっきのロミオ、格好よかったで!」 「あれ?でもさっきノリックと出ていかなかった?」 数人の女子が私の周りに集まり、いつものように抱きついてくる。 ああ皆、小さくて可愛らしいよなあ。 「・・・これ、返すの忘れてたんやわ。返しといてくれる?」 「うん、ええよ。私らももう少ししたら休憩やから頑張るわ!」 そうか。ノリックと私はないか。そりゃそうや。 背も高いし、体格もいいし、女子にばっかりモテる女なんか選ぶわけないやんなあ。 そんなの元からわかってたことや。何を今更。 仲は良かったで?だってロミオとジュリエットやもん。 二人であんなに練習したんや。辛苦を共にしたんや。 仲良くなるのなんて当たり前やろ? しょっちゅうへこむ私に嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれたノリックや。 仲良くならないわけがない。 でも、それで二人がどうにかなるなんて、考えもしなかったんやで? だって、わかりきってたことやもん。 ノリックが私を選ぶはずなんてないって、わかってたことやもん。 なのに、 何でこんなに、胸が苦しいんやろう。 「・・・?」 ピクリと肩が揺れた。 どうしよう、ノリックの声や。 「僕もジュリエットのネックレスつけたままやってん。一緒に返しとこ思て。」 あかん、今はあかんわノリック。 「何かたまってんの?」 自分がどんな顔してるのかもわからない。 けれど、私の今の顔はきっと、 「・・・なんちゅう顔してんねん。」 情けなさと悔しさと悲しさでいっぱいの、複雑でおかしな表情になってるはずや。 「今度はどうしたロミオ。」 「・・・言えへんわジュリエット。」 「・・・。」 いつの間にかノリックが私の手を掴み 私たちはいつも休憩している中庭のベンチへとやってきた。 ノリックがそこに座れとベンチを指差すので 私は渋々と腰を下ろす。 「お前は一人でためこめるタイプやないやろ?」 「・・・。」 「がそんな顔しとるのは嫌やねん。何でも話して。」 ああもう、何でアンタはそんなに優しいんやジュリエット。 だから私みたいな男女が勘違いしてしまうんや。夢見てしまうんや。 「・・・あのな。」 「うん。」 「わ、私やって・・・女の子やねん・・・。」 「知っとるわ。今更何言うてんの?」 「背高くて、体格もよくて、女子にモテまくってるけど女の子やねん。」 「そうやな。そりゃそうや。」 どうしてそこで素直に頷いてくれるんや。 何言うてんねんって、男前な女やけどな!とか笑い飛ばしてくれれば夢も見なかったんや。 「誰だってロミオになるような女の子なんて嫌やんなあ?」 「何で?ええやんロミオ。僕なんてジュリエットやで?」 「ええやんジュリエット!可愛いやんか!!」 「なんや、はジュリエットになりたかったのか?」 「そりゃあなれるもんならなりたかったわ。」 もしも私がクラスの女子みたいに小さくて可愛かったら ノリックがロミオで私がジュリエットでそりゃあ素敵なロマンスがはじまったかもしれん。 けどそんなの夢のまた夢や。 結局ロミオは私で、ジュリエットがノリック。そんなロマンスは起こるわけがない。 「じゃあやってみるか?正統派ロミオとジュリエット。」 「は?」 「クラスの出し物はもう無理やけど、今だけセリフ変えてやってみるっていうのはどや?」 「できんわ!私にジュリエットなんて似合うわけないやん!」 「何で?」 キョトンとした疑問の表情を浮かべて私を見る。 私にジュリエットが似合わないことなんて、皆が思うことやのに。 「私、こんなんやのに。背高くて、体格もいい。 顔だって可愛くないし、ジュリエットなんて似合うわけないやんか!」 「そんなの関係あらへんと思うけど。それに、可愛いと思うで?」 「・・・はあっ・・・?!何言うてんの!!」 「何って・・・思ったままやけど。」 どうしてそういうセリフをさらりと言うんやこのお人は・・・!! またドキッとしてしまったやないか! 「む、無理やん!ロミオはジュリエットを抱えて逃げるんやで?! 私、絶対ノリックより体重あるもん!ノリックには無理や!」 「・・・ほー、そういうこと言うか。」 「だ、だって・・・ってうわあ!!」 いつも優しいノリックが少しだけ怒ってみえたから、 言い過ぎたと思って顔を俯けた。 瞬間、体がフワリと持ち上がる。 「・・・うぎゃー!何してんねん!下ろして!下ろしてやノリック!」 「ちょっと怒ったで。は僕を何やと思てんねん。」 「す、すみません・・・!」 「を持ち上げるのなんか簡単や。見た目で決め付けんといて。」 あかんあかんあかん・・・! こんな男らしいところ見せられて、お姫様抱っこなんてされて 「僕も男なんやって、わかってる?」 そんな格好いいこと言われてしまって、一体私はどうしたらええねん。 『さあ、二人で共に行きましょう。ジュリエ・・・』 「ノリック?」 「あかん、練習しすぎてロミオって呼ばないとしっくりこないわ。」 「・・・ふっ・・・ははっ!そらそうや。私らあれだけ練習したんやもん!ええわ、ロミオで!」 私を抱えたまま、ノリックがロミオのセリフを続ける。 キザったらしいと思ってたロミオのセリフ、ノリックだとやけに様になってる。 「・・・そろそろ下ろしてほしいんやけどジュリエット。」 「いややわ、せっかくロミオを独り占めしてんのに。」 「もうええわ。元気も出たからもう演技は終わりや。」 「誰が演技やっちゅーねん。」 前を向いていたノリックの視線が私に向く。 抱きかかえられているから、顔があまりに近い。 恥ずかしくて視線をそらしたかったけれど、ノリックがあまりに真剣に目で私を見るから そらすことなんてできなかった。 「僕は言うてたやんか、は男らしくなんかないって。」 「・・・え・・・?」 「僕にとっては女の子でしかなかったんやで?」 何を、言うてるんやこの人。 もうフォローはいいっちゅーねん。 そんなこと言われたら、抜け出せなくなるやんか。 「けど当分はロミオのままでええと思うけどな。」 「・・・は?」 「皆がロミオと思ってくれてるなら、それが一番や。特に男子な。」 「・・・わけ、わからん・・・。」 「僕の前でだけ可愛くしててくれればええってこと。」 なあ、抜け出さなくてもええの? 皆、絶対ないって笑うんやで? 私とノリックの性別が逆だったらいいってからかうんやで? もっと可愛い子、たくさんいると思うで? 「意味、わかるよな?」 背が高くて、体格もよくて、女子にばっかり好かれて。 男子に憧れられることはあっても、女として私を好きになってくれる奴なんていないと思ってた。 だから、いくら仲良くなったとしてもそれが恋愛に発展するなんて思ってもみなかった。 しかも相手は女子にも男子にもモッテモテなノリック。 どんなに優しくても、どんなにいい奴でも、好きになっても無駄な相手だと思っていた。 けど、そんなこと言われたら私、夢見てしまうで? 男みたいな私でも、乙女な部分全開になってしまうで? 「・・・可愛くて男前なジュリエットなんて反則や!」 「その言葉そっくりそのまま返すわ、ロミオ。」 夢、見てしまうからな。 ちゃんと責任とってや、ジュリエット! 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