どんどん貴方を好きになる。 想いは、溢れてくるばかりで。 君の笑顔のその先に 「ねえ。」 「何?。」 「知ってる?アンタ最近、風祭と噂になってるの。」 「・・・はあ・・・?」 丁度よく日が当たり、今にも眠くなりそうな昼休みの教室。 お弁当も食べ終え、まったりとした空気の中で目の前の友人が言ったのは、思ってもない一言だった。 「やーっぱり知らないんだぁ。周りから視線浴びてるなぁとか思わなかった?」 「いや、見られてるのはいつものことじゃない。主に悪い意味で。」 「あはは!だよねー!」 真面目なタイプの多いこのクラスで比較的派手な格好をしていて、思ったことをはっきりと言い、その口調も乱暴。 先生にも目をつけられていて、悪い意味で目立っていることは自覚している。 ついでに言えば隣にいる友達も、その小悪魔ぶりで特に女子から冷たい視線を浴びているし。 周りの視線なんて気にしていたら身が持たない。だからそんな視線、気にしてもいなかった。 「、最近風祭と仲いいじゃない?」 「・・・まあ結構話すようにはなったけど。」 「ふふふ。意地張らな〜い。素直に仲良くなったって言えばいいのに〜。」 がニヤリと綺麗な笑みを浮かべる。 友達であるには、風祭への気持ちを話した。 いつでも人を喰ったような態度のが、ポカンと間抜けな顔でその話を聞いていたことを今でも覚えている。 けれど彼女はすぐに、表情を戻して。頑張れと背中を押してくれた。 「『えー!さんってショタコンだったのぉ?!』って言われてたりね!」 「ていうか、同い年なんですけど。」 「うん。冗談。」 「・・・今のってアンタの意見でしょ?」 「あはっ!バレた?」 「・・・。」 は背中を押してはくれるけれど、人をからかうことも忘れない。 彼女にとって、私のような女が風祭のような男の子に右往左往してる様子は 恰好のからかい材料のようだ。 「本当は『さんが純粋な風祭くんを弄んでるよ!』かな!」 「・・・失礼な話ね。」 「あとは『さんが風祭くんをペットにしようとしてるよ!』とかね!」 「うわ、それ、風祭にも失礼。」 「まあでも、OLと言っても通りそうなアンタと、小学生と言っても通りそうな風祭じゃね〜。気持ちわかるわぁ。」 「アンタどっちの味方?」 「べっつに〜?誰の味方でもないわよ?思ったこと言ってるだけー。」 「・・・。」 が素直に私をかばうとも思わなかったし、かばってほしいわけでもなかったけれど。 相変わらずのマイペースな友達に小さくため息をついた。 そんな私を見て、はまた意地悪く笑み、私の後ろへ視線をうつした。 「あんなちんちくりんのどこがいいの?」 「ちんちくりんって言うな!確かにそうだけど!」 「私は絶対佐藤くんだわ!ていうか10人いたら9人は佐藤くんを選ぶわね!」 「どうとでも言えば?私はその最後の1人の方ででいい。」 が向ける視線を追えば、佐藤に何やらからかわれている風祭の姿。 何だか必死になって佐藤に抗議してる。 ・・・可愛いなぁ全くもう。 あ、佐藤がこっち見ながら風祭の頭なでてる。・・・あのニヤニヤ笑い、本当にムカつく。 いや、羨ましいだなんて・・・思わないけどさ! 「ー?何見とんねん?」 「・・・別に。何じゃれてんのかなって思ってただけ!」 「そない熱い視線送っとったら、シゲちゃん困ってまうわー!」 「誰が熱い視線よ。バッカじゃない?勘違いもいいところ!」 佐藤が言う『熱い視線』は風祭に向けられたものだと、彼はわかってる。 わかってて、それで慌てる私が面白くて、風祭に気づかれないように私をからかってるんだ。 本当コイツ、性格悪い。風祭よりもコイツがモテる理由がさっぱりわからないんだけど。 「ほな、その熱い視線は誰に向けられたもんなんやろなぁ?なーカザ?」 「え・・・「だからそんなもん向けてないって言ってんでしょーが!黙れ金髪!」」 「うわっ怖!ほな俺逃げるわ!カザはを足止めしとくんやで!」 「ええ!シゲさん?!」 「!」 佐藤のことなんてほっとけばよかったっていうのに。 風祭を引き合いに出されたのは初めてだったから、つい慌ててしまった。 その勢いで佐藤とところへ駆け寄れば、彼は逃げ出すという始末。 残され、足止めらしきものを頼まれた風祭が困ったように笑う。 「あの、さん。シゲさんも別に悪気はないと思うよ?」 「・・・いや、悪気はあるわね。めちゃくちゃある。」 「・・・・・・そんなことは・・・」 「間をあけて言う辺り、アンタちょっとあるかもなーとか思ってるでしょ?」 「そ、そんなことないよ!」 「あはは、ウソウソ。私はあの金髪じゃないから、人をからかって喜んだりしませーん。」 風祭が私の隣の席になって、彼に感じる気持ちを自覚して。 次の席替えで正反対の位置になって。代わりに隣にはやかましい佐藤。 席が遠くなって彼も遠くなったように思えたけど、 彼のサッカーを見に行くようになってからは、その距離もあまり感じなくなった。 休日でも部活が終わってからでも、風祭が練習場所としてる3丁目の土手。 たまにそこに彼を見に行っている。練習の邪魔になるのは嫌だから、毎日ってわけじゃないけれど。 けれどそこへ行けば彼はいつでも笑顔で私を迎えてくれて。数回は見るだけじゃなく実際にサッカーしてみたりもした。 そうやって何度か訪れる私を風祭がどう思っているかなんてわからない。 だけど、その時間は確かに楽しくて。胸がドキドキしていた。 彼の気持ちを知りたいとも思ったけれど。 だけどそれ以上に。 少しずつでも風祭との距離が縮まっていくことが嬉しかった。 「そうだ、風祭。今週練習試合なんだって?」 「うん、そうだよ!」 満面の笑みで、本当に嬉しそうに笑う。 ああ、さっきのとか佐藤とかの意地の悪い笑みとは大違い。 「見に行ってもいい?」 「勿論!さんも楽しんでくれると嬉しいな。」 「そうだね。ああ、佐藤より活躍してよね。期待してるし応援するからさ!」 「あはは。ありがとう!」 風祭を好きになってから、もう大分時が経っているように感じる。 それなりに近づけたとも思うし、話だって何度もしてる。 だけどこの風祭の笑顔は、いつまでたっても慣れない。 初めて話したあの日から、何度も何度も見てるのに。 その度にこんなにも胸が高鳴って。もう私、本当に重症だ。 「今日は部活全部中止やって。」 「…ああそう。何で私に言うのよ。私帰宅部なんですけど。」 「、知りたいかなぁ思て。」 「・・・。」 隣で相変わらず腹の立つニヤニヤ笑い。 腹は立つけど、結局これもいつものことだし。いい加減コイツのからかいにも慣れた。 私は佐藤を見もせずに、次の授業の準備を始める。 「ああー。サッカー部も休みやなあ。今日は早く帰れるわ、何しよー。」 「チラチラこっち見ないでくれる?うざったい。」 「そういやカザがスパイク履きつぶした言うてたなぁ。あれ?今日買いにいくんとちゃうかな。」 またいらぬおせっかい。 別にそんな情報なんて知りたく…ないわけじゃないけどさ! つまり今日は部活が休みだからって、いつもの土手には行かないってわけで。 もしかして、学校帰りにスパイク買いに行くのかな。 いつもの土手で、いつものサッカーじゃなくて。 そりゃ結局サッカーに関することなんだけど。 それでも一緒に買い物とかしてみたい・・・って、いやいやいや! 私がスパイクなんて見てもわからないし、風祭がスパイク買いに行くかもわからないし。 一人で行くかだってわからないし、そもそも一緒に連れていってだなんて言うの恥ずかしすぎるし…!! 「…くっ…っ・・・あははは!」 「!」 「あかん…。顔おもろいことになってるで…?」 「・・・っ・・・!うるさい金髪!」 「可愛ええなぁ、ちゃーん!」 「マジムカつくアンタ…!」 「それはおおきに。」 「褒めてない!」 佐藤の言葉に振り回されて、心の中で葛藤していた私の表情は 佐藤が笑い転げるほどにおかしかったようだ。 コイツに気持ちがバレたのは、本当に失敗だった。ああ、風祭の隣にいたあの頃が懐かしい…! 「か、風祭!」 「さん。」 別に佐藤の言葉に踊らされたわけじゃない。決してない。 今は昼休みで、廊下を歩いてたら偶然風祭が目の前にいたから。 ちょっと声をかけてみただけ。 「今日、部活休みなんだって?」 「うん。そうなんだ。学校の都合らしいけど…。」 「じゃあ今日はいつもの土手で練習?」 「ううん。ちょっとスパイクを見に行こうと思ってるんだ。」 声をかけたら、彼はいつもの土手には行かずにスパイクを買いにいくっていうから。 私も少し、ほんの少し興味を持って。 「わ、私も…見に行っていい?」 「え?」 「ちょっと興味ある。だから、せっかくだから。」 嘘じゃない。 風祭の興味のあるもの、私も知りたいと思ってたんだから。 ・・・なんて、誰が聞いてるわけでもないのに、そんな下手な言い訳を必死で自分に言い聞かせた。 そうやって冷静を保とうとして。素直に風祭と一緒に帰りたいって言えばいいのに。 ああ私、本当格好悪いなあ。 「じゃあさんも一緒に見に行く?」 「・・・うん!」 それでも目の前の彼は。 嫌な顔一つ見せずに、思わず抱きしめたくなるような笑顔を返してくれるんだ。 ・・・やばい。私今、絶対顔真っ赤だ。 それは勿論、風祭の笑顔のせいでもあるけれど。 部活がないことも、風祭がスパイク買いにいくことも知ってて 下手な言い訳で誤魔化してたこと、なんだかすごい恥ずかしくなってきて。 「じゃ、じゃあ帰り、私職員室よってから行くからさ!昇降口で待ってて!」 「え?う、うん!」 私が慌ててその場を去ろうとするから、風祭が一瞬疑問の表情を浮かべた。 もう多少挙動不審になってしまうのは仕方ない。 すごく真っ赤になってるこの顔を見られるよりもよっぽどいいから。 彼に話しかけるってだけでこんなにも胸がドキドキして。 彼と一緒に帰れるってだけで、こんなにも胸が弾んで。 彼の笑顔を浮かべるだけで、こんなにも心が温かくなって。 誰から見たって『恋愛』につながらないけれど。 どう見たってタイプは違うけれど。 おせじにもお似合いとは言えないのだろうけれど それでも、今まで誰にも持つことの出来なかったこの気持ちをくれたのはたった一人。 周りに何を言われたって、私が風祭を好きな事実は変わらない。 周りなんて気にせず、私は私の想いを持っていればいい。 そうして少しずつ、彼に近づければいいと、そう思ってた。 「!」 「・・・え?」 風祭と別れてから大した時間も経たないうちに聞こえてきたの声。 後ろから叫ばれ、彼女の方へと振り向いた。 「教室で風祭がからまれてる。」 「は?」 「のファンの男みたい。最近アンタと風祭が仲いいから・・・って?!」 の言葉を全て聞くこともなく、私は走り出した。 私のファンって何?何で風祭がからまれるわけ? たとえソイツが本当に私のファンなんだとしたって、 風祭にからむ理由なんてひとつもないはずでしょう? 『・・・っだろ?!』 教室に近づくにつれて聞こえてきた、誰かに凄んでいるような男の声。 「お前何調子乗ってんだよ!に遊ばれてるだけだろうがよ!なあペット君?!」 その男の声以外聞こえない、静まり返った教室の中心には 風祭の胸倉を掴むガタイのいい男の姿。 風祭が胸倉を掴まれている経緯はわからない。 けれど、それに私が関わっていることは明らかで。 「ちょっ・・・!!」 「さんは、そんな人じゃないよ。」 その男を止めようとした私の声に、風祭の凛としたまっすぐな声が重なった。 風祭の言葉にさらに逆上したその男は、私の存在に気づかないまま風祭を壁に押し付けた。 「じゃあが本気だって?何勘違いしちゃってんの?」 「さんは、性格悪くなんてないよ。」 「はあ?さっきのこと言ってんのかよ!顔だけの性格最悪女?その通りだろ!皆言ってるっての!!」 男の横顔が見えた。 そして、彼は私が昨日告白されて振った男だったのだと気づく。 告白されて、手ひどく追い返して。 悪い噂が立つことも、陰口を言われることも知ってたし、もう慣れていた。 だから、何を言われたって大丈夫。 だから、風祭。私なんかをかばわなくていいんだよ。アンタが傷つく必要なんてないんだ。 「皆が言ってるからそれが本当なの?それほどに皆はさんを知ってるの?」 「・・・ああ・・・?」 「僕だってさんをよく知ってるわけじゃない。だけど、僕が見たさんは優しくて人の気持ちがわかる人だ。」 私、性格悪いって評判なんだよ? 実際、目の前のソイツが言うようにひどい言葉で告白を断ったりもしてる。 言葉だって乱暴だし、思ったことははっきり言うし、クラスの大半に距離を置かれてる。 なのに。 何でそんな言葉をくれるの? 迷惑になるのがわかってて、それでも風祭が笑顔で迎えてくれる優しい奴だってわかってて。 アンタの練習場所にまでいつくようになった、自己中な奴なのに。 「は、はは!完全に毒されてるぜコイツ!がお前のこと好きだとか本気で思ってんだろ?!」 「好きよ。」 「?!」 まるで見下すように風祭を見下ろしたソイツの言葉に、即座に答える。 ようやく私の存在に気づいて目を見開き、口をパクパクとさせるその男は無視して私は言葉を続けた。 「その手を離しなさいよ。」 「?お前・・・何言ってんの?マジでコイツが好きだとか言ってるわけ?冗談だろ?」 「聞こえてなかった?好きだって言ってるでしょ?」 「・・・っざけんな!バカにしてんのかよ!俺よりコイツの方がいいなんて・・・!!」 「アンタこそ何を勘違いしてんの?アンタなんかよりも風祭の方が何千倍も格好いいわよ。」 「・・・っ・・・!」 クラス中の視線が集まる。 けれどこの時の私に迷いはなかった。 「この女っ・・・!!」 「はーい。そこまでにしときや〜。」 「・・・佐藤・・・!」 「格好悪いわ兄さん。ここは大人しく自分のクラスへ戻るのが正解や。」 振り上げられた手が私に落ちてくることはなく、その手を掴んだのはいつの間にかそこにいた佐藤。 笑っているように見せて、何も言わせないような冷たいオーラが溢れ出していた。 「・・・くそっ・・・!」 私たちを睨みつけるように、男が教室を去っていった。 シンとした教室。私はたくさんの視線を感じながらも、風祭を見ることだけはできなかった。 私のせいとは思わないけれど、関係ないとは決して言えない。 彼を巻き込んでしまった申し訳なさと、こんな形で想いを伝えてしまった恥ずかしさと情けなさ。 「・・・さん・・・!」 私の名を呼んだ風祭の声を聞こえなかったフリをして、私は無言で教室を後にした。 誰もいない渡り廊下で、授業終了のチャイムが鳴った。 結局午後の授業をさぼった私は、ひとつため息をついて自分の教室へ向かう。 教室には数人のクラスメイトが残っていた。 鞄を取りにきた私を無言のままに興味深そうに見つめる。 クラスメイトの視線など、さして気にならなかった。 私がずっと気になっていたのは風祭のこと。 本当は今日はもう彼とは顔をあわせたくなかった。けれど。 「じゃ、じゃあ帰り、私職員室よってから行く!昇降口で待ってて!」 約束を取り付けたのは私。 そして優しい彼は、あんなことがあった後でも私が来るまで昇降口で待っているのだろう。 「・・・さん・・・。」 「お待たせ。」 その予想の通りに、昇降口に私を待ってくれていた風祭の姿。 私は視線をあわせずに、一言だけ彼に言葉を返した。 歩き出した道には、風の音だけが聞こえる。 何を言えばいい? あんな形で、あんなところで、私の想いを伝えてしまって。 私のことで、風祭を巻き込んでしまって。 何から話せばいい? 何を伝えればいい? 「さん。」 「!」 一人でごちゃごちゃと考えているうちに、風祭が私の名前を呼ぶ。 私は慌てて彼の方へと振り向き、言葉を待った。 「今日の・・・昼休みの・・・」 「・・・ごめんっ!!」 そうだ、まずは謝りたかった。 巻き込んでしまって、迷惑をかけてしまったこと。 「・・・え?」 「あんなことに巻き込んで本当にごめん!」 「そ、そんなさんが謝ることじゃないよ!」 「だけど・・・風祭ひどいことたくさん言われたじゃん!」 「たいしたことじゃないよ。さんは何も悪くない。謝らないで?」 そう言って笑う風祭があまりに優しいから。 思わず目には涙が浮かんでしまって。それを隠すように顔を背けた。 「もっと・・・怒ればいいのに!私なんかのことかばってさ・・・!」 「だって本当のことだよ?さんは優しい人だと思う。」 「私のどこが優しいのよ!結局私の評判が悪いから、風祭も変な風に見られて・・・!」 「周りにどう見られようと、どう思われようと関係ないよ。」 私のひねくれた考えも、まっすぐに受け止めてはっきりと答えてくれて。 可愛いくせに格好いいところもあるって知ってたけど、さすがに今のアンタは格好よすぎるよ。 どんどん貴方を好きになって。 次々に気持ちが溢れだす。 「・・・本気だからね!」 「え?」 「勢いで言ったみたいになっちゃったけど、私、本気だから!」 「さ・・・」 「風祭が好き。」 そしてまた、風の音だけが聞こえて。 少しの静寂。けれどその時間はとても長く感じられた。 「・・・僕は・・・。」 静寂を破った風祭の声。 「・・・僕はさんが言ってくれてる『好き』って気持ちがよく、わかってなくて。」 私は静かにその声に耳を傾けた。 「何が『好き』なのか、わからなかったんだ。友達や仲間を想う好きとは違うものなのかって。」 そう、確かに彼はそう言っていた。 好きな人を聞いたとき、友達や仲間だとそう答えた。 それでも私は彼を振り向かせようと決意して、風祭の一番になりたいと強く願った。 「さんと一緒にいて楽しかったよ。だけどそれが恋なのかはわからなくて・・・。」 やっぱり私の言葉は、風祭を困らせてしまうものでしかないのだろうか。 彼が今、一番大切にしているのはサッカーで。愛だの恋だのはいらなかったのだろうか。 「でも。」 俯けた顔をあげる。 そこにはまっすぐに私を見つめる風祭の顔。 「・・・僕、嬉しかったんだ。」 そのまっすぐな瞳から目をそらすことさえできずに。 風祭の真剣な表情をただただ見つめていた。 「さんが僕を好きだって言ってくれたこと。」 風祭が小さく微笑む。 その言葉に、私は動くことも言葉を発することさえできなかった。 「さんがサッカーを応援してくれることも、楽しそうに笑ってくれることも。 僕自身が気づかなかっただけで、本当はきっとずっと嬉しかったんだ。」 胸の高鳴りは最高潮で。 混乱した頭では、風祭の言葉のひとつひとつが夢のように思える。 「これからも側で笑っててほしいって、そう思う。」 だけど。これは夢なんかじゃなくて。 「・・・さん?」 風祭を見つめたまま、固まっていた私を風祭が心配そうに覗き込む。 突然目の前に現れたその顔は、私を慌てさせるには充分で。 「あはは。さん顔真っ赤だね。」 「う、うるさい!」 「こんなさん見るのも初めてかもしれないな。」 「こんな顔覚えられても困るし!忘れてよね!」 慌てて真っ赤になる私を見て、風祭が優しく微笑んで。 その表情を見て、私はまた顔が熱くなる。 「・・・私が側にいて・・・風祭の評判まで悪くなっても知らないからね。」 「大丈夫だよ。そもそもさんの評判が悪いのがおかしいんだし。」 「・・・。」 「それにさ。」 「何?」 「側にいたいって思うのも、側にいてほしいって思うのも僕だから。 あ、その・・・さんさえ良ければだけど・・・。」 そこまでは格好いい台詞ばかりだったのに、最後の最後で弱気になったりして。 そういうところまで愛しく思えてしまう。 私さえ良ければって、いいに決まってる。 そう望んでいたのは私。私だってずっと思っていた。貴方の隣で笑っていたいと。 お互いの手が軽く触れ合う。 真っ赤になって顔を背けて、これ以上格好悪いところなんて見せたくないから。 言葉の代わりに、彼の手を握った。 一瞬だけ、驚いたような反応を見せて。 けれど風祭もすぐに私の手を握り返した。 横に並んで歩く私たちは、お互いの表情が見えなかったけれど。 つないだ手から伝わる温もりは お互いが微笑んでいたこと、伝えてくれているような気がした。 TOP |