−「不覚」− まさにそんな言葉がピッタリだった。 君の笑顔が愛しくて 「さん!俺あなたのことがずっと好きでした!俺と・・・「無理。」」 「・・・は?いや、だからあの、俺はさんが・・・「だから無理だってば。」」 放課後の教室。 名前も知らない男に呼び出されたら、案の定。 私はいつも通りに、さっぱりきっぱりざっくりと答える。 だって、それが彼のためでしょう?・・・え?まあ面倒だからなんだけどね! 話は終わった(終わらせた)ので、私は教室へ戻る。 「うわ・・・キッツー・・・。」 「いくら可愛くても、あれじゃなー。」 「クスクス。さすがさんだよね。あんな言い方できるなんて。私にはマネできなーい。」 コラコラ聞こえてんぞお前ら。 陰口って言うのは、人に聞こえないようにするんじゃないの? いや、それはそれでムカツクけども。 「また一つ、悪い噂がたつんじゃないの?。」 バカにしたような声に振り向くと、がいた。 私の友達と言える数少ない人間だ。 「悪いも何も、私悪いことしてないんだけど。」 「まわりはそう見ないわよ。あんな断り方して。 アンタ見た目だけで悪そうなんだから、せめて態度はしおらしくしたら?」 「に言われたくないし。」 私とはクラスで浮いた存在と言っていいだろう。 比較的、真面目な人間が多いこのクラスで、 スカートは短く、化粧ばっちり、髪の色はオレンジと茶。 「まあ、しおらしくしてなくたって男が寄ってくるんだからすごいわよね。」 「別にいらないし。だって同じでしょ。」 「私はしおらしくしてるもの。気に入ったら付き合うし。」 「・・・アンタが特に女子に嫌われてる理由がわかるわ。」 「別に嫌う奴は嫌えばいいしー。ていうか、モテない奴のひがみでしょ?」 「・・・何で男はアンタの本性に気づかないのかしら。」 「え?私が可愛いからじゃない?」 「・・・・・。」 はっきり言って私は、自分でも性格がいいとは思っていない。 言いたいことははっきり言うし、誰かに優しく声をかけるなんてこともしない。 それなのに、顔が良いとかそういう理由で、私に告白してくる男たちはどうにも気に入らない。 私のことなんて、何もしらないのに。そう思ってた。 「はーい。じゃあ皆自分の席わかったわね?机移動してー!」 担任の香取先生が言う。 今日のHRは席替だったので、私も机を持って席を移動する。 今までは前から2番目という、結構嫌な席だったけど 今度の席は窓際の一番後ろという、いい席が取れた。 こういうことがあるなら、席替もたまにはいいかも。窓際をゲットした今は、もうしてほしくないけど。 「わあ!」 机を移動し終わり、一息つくと、横から慌てたような声が聞こえた。 横を向くと、小さい男の子が机の中身をばらまいて、慌てて片付けていた。 ・・・名前、なんだっけ? 「何やってんだよ風祭〜。」 「あ、ゴメン。ありがとう。」 彼の席に近いクラスメイトが彼の教科書を拾う。 そうか。風祭ね。 確か武蔵野森からの転入生だったはずだ。地味だからすっかり忘れてた。 なんだか鈍そうな奴だなあ。ていうか、私と同い年には全然見えない。 風祭がこちらを見る。私がじっと見ていたから、視線に気づいたようだ。 「隣の席なのに、いきなり迷惑かけちゃったよね。」 「別に。私何もしてないし。」 私は愛想なく答える。 まあ、本当に何もしてないし。迷惑もかけられてないし。 それでも、風祭は気にしたようでもなく言葉を続ける。満面の笑顔で。 「これからよろしくね!さん!」 ドクン ・・・あれ? なんか今、心臓が・・・。 「・・・うん。」 ドクンドクンドクンドクン 風祭が照れたように笑う。 私はその瞬間、確実に、風祭を 『カワイイ』 と思ってしまった。 「ポチ−。部活いくでー。」 「あ、はい!シゲさん!」 放課後になって、佐藤が風祭に声をかける。 ・・・確か佐藤はサッカー部。ふーん。風祭もサッカー部なんだ。 しかもあだ名はポチかよ。似合いすぎる。 荷物を持って、教室を出る風祭を密かに見送って、私は机に突っ伏す。 私は一体どうしたんだろう。こんな心臓がドキドキ言ってるのは初めてで。 今までどんな男と話しても、告白されても、こんな気持ちになったことはなかった。 「。帰んないの??もうクラス誰もいないわよ。」 「。うーん。もうちょっとココにいるわ。」 「ふーん。何かおかしくない?。」 「・・・別に。」 「そ。じゃあ私は帰るから。じゃーねぃ!」 何かあったかと言われれば、すごくあったんだけど。 にはまだ言わないでおこう。自分でもよくわからない気持ちだし に言ったら絶対バカにされる気がする。 ていうか、何でよりにもよって、あんな私よりも背の低いちんちくりんにドキドキしてるんだ。 一応、私も結構もててるんだけど。別にあんな鈍そうなガキにドキドキなんかしなくてもいいじゃん。 落ち着け。落ち着け。この気持ちは恋なんかじゃない。 そう、これは小動物を愛でるような、そんな気持ちだ。 机に突っ伏したまま、窓の外を見る。 するとさっき部活に向かっていった、佐藤と風祭がもうグラウンドにいた。 ・・・サッカー部なんて、あんまり興味なかったけど、結構ちゃんとやってるんだ。 「・・・・・。」 風祭と佐藤が競り合ってる。・・・あ、風祭ふっとばされた。 風祭はそれでも立ち上がって、「お願いします!」とか言ってる。 ボールを取り合っては、あっさり取られ、シュートをしてはあっさり止められてる。 ・・・風祭弱いな。 それでもあきらめずに、何度も何度も向かっていく。 ・・・なんだ。鈍くても、根性は誰にも負けてなさそう。もっとのほほんとした奴かと思ってた。 私は時間が経つのも忘れ、サッカーを、風祭を見ていた。 部活の最後にシュートを決めた風祭の笑顔は、やっぱり可愛くって、・・・カッコよかった。 「・・・風祭ってさあ、サッカー部なんだ。」 「え?うん。そうだよ。」 「・・・好きなんだ?」 「うん!大好きだよ!」 ・・・ぐはぁっ!!なんだこの可愛さ!! 待て。待て待て待て。私はこんなキャラじゃないはずだから!! 私は必死に気持ちを落ち着けて、風祭との会話を続ける。 「昨日、アンタがサッカーしてるの見たよ。」 「え?どこで?」 「どこでって、学校以外にあるの?」 「ああ!部活か。僕、近所の土手でサッカーしてたりもするから、そっちかと思った。」 「学校以外でもやってんの?すごい根性あるね。」 「そ、そんなことないよ!僕が好きでやってるんだから・・・。」 風祭は照れたように笑う。・・・可愛すぎる。 このガキ(同い年)は天然コマシ男だ。そうに違いない。 風祭と話していると、クラスの女子が話し掛けてきた。 「あのっ・・・さん?」 「・・・ん?」 「あのね、廊下に他のクラスの男子が来てて、さんを呼んでくれって。」 「いないって言って。」 「え、いや、無理だよ・・・。」 まあそうか。廊下から私の姿見えてるからね。朝っぱらからやめてほしい。 ていうか、私の憩いの時間(風祭)を邪魔するってどういう了見よ!! 私は少しだけ、風祭を振り返る。風祭は何のことかわからない顔をして、私に笑顔を向ける。 くぅ・・・!この鈍感大王め!!クラスの大半は私が呼ばれた理由を知ってるのに! 私はいつにも増して不機嫌な顔で、廊下に出る。 また、誰だか名前も知らない奴が立っている。 「・・・何?」 「俺、C組の立原・・・「何?」」 「俺のこと知らない?実は結構人気あるんだけど。」 「うん。全く。それで?何の用?」 「俺と付き合わない?」 「付き合わない。用は終わりね?それじゃ。」 「ま、待ってよさん!何でダメなの?」 「・・・好みじゃない。」 「そんなの付き合ってみないとわからないだろ?」 こういう男が一番面倒くさい。 自分に自信をもっているから、なかなか引き下がろうとはしないんだ。 『俺が振られるわけない』とか思ってるんだよね。多分。 「アンタ、どれだけ自分に自信があんの?何で好きでもない奴と私が付き合わなきゃならないのよ。」 「自信は結構あるよ?さんを振り向かせる自信だってある。」 「それはないわね。」 「何で?」 「・・・好きな人がいる。アンタじゃない。」 「な、何それ!誰だよ!」 「アンタにそれを言う必要なんてないでしょ?それじゃあね。」 男はそれでも私を引きとめようとしてたけど、そのとき丁度授業開始のチャイムが鳴る。 席に戻る途中になにやらヒソヒソ言われてる。だから陰口は気づかれないようにやれっての! 席に戻ってため息をつく。 「・・・さん。何かあった?大丈夫?」 風祭が心配そうに声をかける。 ここは窓際の席だから、今、廊下であったことなんて見えないし、聞こえない。 それでも風祭は私の心配をしてくれた。 「大丈夫だよ。・・・ありがと。」 自然に言葉が出てきた。 人にお礼を言ったのなんて、ずいぶん久し振りだ。 ふと気づくと、風祭が顔を赤らめている。・・・あれ?私何か変なこと言った? 「何赤くなってんの?」 「え、ううん。何でもないよ。」 「はっきりしなさいよ。そういうのイライラする。」 「あ、あの、今・・・さんが初めて笑ったから・・・。」 ・・・笑った?私が? いつも機嫌悪そうとか、表情がないとか、悪そうな顔とか言われてる私が笑ってた? ・・・私、笑ってたんだ。風祭の前でなら、自然に笑えるんだ。 クラスメイトのざわめきの中から、声が聞こえた。 『さんの好きな人って誰なんだろうね?』 それはね、私の隣にいる男の子。 小さくても、鈍くても、サッカー下手でも、 努力家で、根性あって、サッカーが大好きな、風祭が好きみたい。 「さんって綺麗だけど、笑うともっと綺麗に見えるね。」 「・・・アンタが笑った方が全然可愛いわよ。」 「え!そんなことないよ!!」 あ、また照れたよ。風祭。 そんなに私を虜にしたいのか。この天然め。 「風祭って好きな人いるの?」 「何?急に?」 「別に。ちょっと興味あるだけ。」 ていうか、かなり興味あるんだけどね。 これで、好きな人いるんだ!とか笑顔で言われたらどうしよう。 「いっぱいいるよ?友達とか、サッカー部の仲間とか。」 「・・・へー。」 うん。まあ予想通りかな!! まだ彼は『サッカーボールが恋人』ということで!! 私は誰にも聞こえないような、小さな声でつぶやく。 「・・・覚悟してて。」 授業の準備をする風祭を見る。 ねえ風祭。覚悟しといてよね。 私、絶対アンタを振り向かせてやるから。 とりあえずは、アンタの大好きなサッカーと同じくらい。 それで、いつかは、それさえも超えられたらいいと思う。・・・ムリかな。このサッカー馬鹿には。 それでもアンタの、一番になってやるから。 覚悟、しててよね。 TOP |