最近、よく視線を感じるようになった。



俺、誰かに恨まれるようなことしたっけ。・・・まあ割としてるかも。
そんなことを考えながら、視線の主を探してみれば、その正体は学校の有名人。



多くの男子たちの憧れの的。
綺麗で可愛くて大人しくて、スタイルも良くて彼氏は無し。そりゃあ人気にもなるだろう。



そんな子がなぜ俺に視線を向けるのか。そもそも彼女は男嫌いだと聞いたような気がしていたけれど。
沸々と沸いてきた好奇心。視線に気づかないフリをしながら、彼女の本心を探る。












For good or bad














「え?のこと?ってアンタもを狙ってんのか中西ー!!」

「誰も狙ってねえよ。ちょっとした興味。だって昨日見た?
俺がお前と話し出した瞬間、わざとらしく逃げてったじゃん?さすがの俺も傷つくよ?」

「あー。まあ中西だからいいんじゃない?」

「んんー?」

「嘘ですごめんなさい。・・・まあ、大目に見てあげてよ。男の子苦手なんだよは。」

「なんで苦手なの?」

「詳しくは聞いてないけど、あの容姿だからねえ。必要以上に構われて苦手意識を持っちゃったんじゃないかなあ。」

「ふーん。」





まあ予想通り。
見目が整っている奴は、小さい頃に愛情の裏返しでからかわれたり、度を越した可愛がられ方されたり、妙な奴にも目をつけられやすいだろうし。
しかし、なぜ俺を見ているのかには、まったく繋がらない。





「あ、でも中西は頑張れば普通に話せるようになるかもね。」

「なんで?」

「中西、他の男子みたいに、に対してがっついた態度とらないじゃん。」

「美人とは思うけど、それだけでを追い回してる男たちを見ると、バカだなあって思うよね。」

「ですよねー。嫌われるだけなのにねー。」

「ねー。」

「まあそういうところがにとっては新鮮だったと思うのよ。下心ないなら仲良くしてもいいよ。」

「お前は何様だよ。」

の親友様?」

「一方的な?」

「ちがーう!!」





ああ、つまり他の男とは反応が違っていたから、興味が沸いただけってことか。
なんだ、あっさりと解決してしまった。たいした理由じゃなかったのか。つまらない。









それからしばらく経って、グラウンド近くのベンチで根岸とが話しているのを見かける。
特に話すこともないので、通り過ぎようとしたら、案の定テンションの高いに見つかった。





「あ、中西。中西ー!ちょっとー!」

「へ?中西?」

とネギじゃん。どうしたの?」

「中西に聞きたいことが。」

「高いよ?」

「大丈夫大丈夫。根岸いるから!」

「わかった。」

「おおおい!?」





とネギは相変わらずだなー。騒がしくて、扱いやすくて、単純。
いや、これ、褒めてるからね?からかいがいがあって面白いよねって意味ね。





「中西ってどんな子がタイプ?」

「金髪美人。」

「えええええ!?そうなの!?」

「嘘だけど。」

「嘘かよ!」

「でも嫌いでもない。」

「どっちだよ!」

「外国のお姉さんとか、無条件にえろい気がするよね。」

「そうなの!?」

「お前、からかってるだけだろ?」

「えーそんなことないよー?」





そしてが突拍子もなく、訳のわからないことを聞いてくるので、軽くからかってみた。
本当、1答えると10返すようなテンションで反応してくるんだよな。しかもそれが二人もいるから余計にやかましい。

と、思っているところで、感じた視線。
まただ。こっちから見えてるのに気づいてないのかな。
まあ、友達のを見ているとも考えられるんだけど。





「なに、俺のこと好きなの?ちょっと困るっていうか、対象外っていうか、もっと色気出してから出直してこいっていうか・・・

「そんなわけあるか!ばーかばーか!」

「えーひどーい。傷つくー。」

「こっちの台詞だよ!予想外のところから攻められて泣きそうだよ!」

「・・・えー、えっと、だからさ。世の中にはこういう奴もいるわけでな、全員が全員を好きなわけじゃないわけだ。」

「中西じゃ全然参考にならん!」

「え、なにこれ。なんで俺がけなされてんの?ネギ蹴っていいの?」

「どうぞ。」

「ダメだよ何言ってんの!?」





から話を聞いたことで、俺を見ている理由がわかって、そのうち飽きるだろうと思っていたけれど。
は一向に飽きる気配を見せない。かと言って俺に何かを言ってくるわけでもない。
いい加減、はっきりさせたくなってきた。

俺は適当に話を切り上げると一度その場から去り、少し回り道をして、のいた場所へ向かう。
彼女にばれないように、後ろから声をかけてみれば。





「覗きなんて悪趣味〜。」

「ひゃあ!」

「俺らのこと見てたでしょ?サン。」

「な、なな、中西くん!」

「驚きすぎ。そんなんだから隙だらけで狙われるんだよ。」





おお、新鮮な反応。
いつも大人しいし、怯えているところしか見ていなかったから、こんな大きな声が出せると思わなかった。





「ち、違うの。偶然、ちゃんが見えたから・・・。」

「声かければよかったのに。」

「えっと、あの・・・」

「ああ、ネギがいたから?」

「・・・そ、それは・・・」

「それとも、俺がいたから?」

「!」

「お、図星。」





何かをするわけでも、声をかけるわけでもなく、ただ見ているだけ。
最初は別に何も思ってなかった。気にする必要もないと思っていた。
けれど、何度も向けられる視線。そろそろその理由を話してもらおうか。

臆病って言葉で片付けるなんて、認めない。
逃げ道だって、作ってやらない。





さん、俺のこと避けてるでしょ?」

「え・・・」

「ていうか、男子が来ると逃げ出すのは知ってる。と一緒のときに、偶然男子と会って話し始めると、
用事があるとか言ってその場から逃げるよな。」

「・・・あ・・・」

「別にそれはいいんだけど。なんで避けて逃げ出すくせに、俺のことはわざわざ戻ってきて、遠くから覗いてるの?」

「!」





驚いて、彼女の真っ白な肌が、みるみる赤くなっていく。
もしかして、と考えていた可能性のひとつ。だんだんと確信に変わっていく。





「話したいことがあるなら聞くよ?」

「っ・・・」





何も言えなくなり固まってしまった
俺がもう少し優しかったら、俺から話を振ってやるとか、言葉が出てこない状態を察して、帰してあげたのかもしれないけれど。

ごめんね。俺、そんなに優しくないんだ。





「・・・そう。何も言わないってことは、俺の勘違いか。」

「・・・っ・・・ち、ちがうの!」

「ん?」

「・・・わたし・・・もっと・・・中西くんとお話してみたくて・・・その、ちゃんみたいに・・・」

「それは無理だと思うなー。」





俺の諦めたような表情に、慌てて言葉を発する。それは確実に彼女の本音。
だけど、みたいになるだなんて、聞き捨てならない。
をからかうのも楽しいけど、を困らせて慌てさせるのとは、根本の感情から違う。

俺の言葉にショックを受けて、悲しそうに顔を俯ける
勝手に勘違いして、勝手に落ち込んで、そこから引き上げてやったら、ねえ、次はどんな顔を見せる?





「俺、あんたをと同じように見れないもん。」

「・・・。」

「あいつはネギと一緒で、からかいやすいんだけどねえ。」

「だ、だから私も同じように・・・」

「それだと男友達と同じ扱いになっちゃうじゃん。」

「・・・え・・・?」

「俺、どうしてもを女として見れないんだよね。だから、を目指されると困るの。」

「・・・き、金髪じゃないから?」

「なんで金髪・・・ってぶは!さっきのあれか!」





さっき二人をからかっていた話題を真剣にとられていて、思わず吹き出してしまった。
しまったという表情を浮かべて、慌てて戸惑うを見て、笑いは止まらなくなる。





「あ、ご、ごめんなさい・・・聞いちゃって・・・」

「っ・・・あれね、嘘。」





いつも友達の後ろに隠れて、緊張しているからか、話す言葉もたどたどしくて。
だけど、隠れながらずっと自分に視線を向ける。ばれていないと思いながら、言葉すらかけずに。
そんなことされたら、嫌でも興味を持つに決まってる。視線を感じるたびに、君のことが頭に浮かぶ。
視線の意味にまったく気づかなかったわけじゃない。でも俺、健気に見つめてるだけとか、相手からの言葉を待つだけとか、好きじゃないんだよね。



だから、彼女をまっすぐに見つめる。



困った顔をしても、いつも助けてくれるおせっかいな友達は現れない。



逃げ出すなんて、許してあげないよ。





「本当のこと、知りたい?」





潤んだ瞳に上目遣い。必死で何かを言葉にしようと唇を震わせる。



さて、どうしよう。俺、彼女がこの後何を言っても、優しく出来る自信がない。







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