昔から、からかわれることが多かった。 変な人に付け回されて、泣きながら逃げ回ったこともあった。 「可愛い!もー!ってばなんでそんなに可愛いのー!」 友達のちゃんは、いつも自分に悲観的。 対照的に私をすごく褒めてくれるけれど、私にとってはちゃんの方がよっぽど羨ましい。 「可愛い!羨ましい!私もみたいになりたい!」 私はちゃんのように、たくさんの人に頼られるようになりたい。 気になる人と、楽しくお話できるようになりたい。 For good or bad 学校から帰ろうとすると、偶然、ちゃんと根岸くんが話しているのを見かけた。 そこにいるのがちゃんだけならば、迷わず話しかけるんだけど・・・男の人はどうも苦手だ。 根岸くんがいい人だっていうのはわかっているんだけど、こういうとき、いつも躊躇してしまう。 「あ、中西。中西ー!ちょっとー!」 「へ?中西?」 そして二人の前に現れた、中西くん。 根岸くんと同じサッカー部で、私もちゃんを通じて少しだけ話したことがある。 私は男の子と話すとき、距離を置かれるというか、私の緊張が相手に伝わってしまうというか、気軽に話せることがほとんどない。 けれど、中西くんは緊張などまったくせずに、距離を置くわけでもなく、近づきすぎるわけでもなく、ただ淡々と話してくれた。その姿がすごく印象に残っている。 「とネギじゃん。どうしたの?」 「中西に聞きたいことが。」 「高いよ?」 「大丈夫大丈夫。根岸いるから!」 「わかった。」 「おおおい!?」 いいなあ、ちゃん。中西くんと息ぴったりだ。 楽しそうだなあ。私もああやって、楽しくお話が出来たらいいのに。 「中西ってどんな子がタイプ?」 ・・・ええ!?突然なにを聞いてるのちゃん!? もしかして、もしかして、ちゃんは中西くんのことが・・・ 「金髪美人。」 き、ききき、金髪!? 「えええええ!?そうなの!?」 「嘘だけど。」 「嘘かよ!」 「でも嫌いでもない。」 「どっちだよ!」 「外国のお姉さんとか、無条件にえろい気がするよね。」 「そうなの!?」 「お前、からかってるだけだろ?」 「えーそんなことないよー?」 そうなんだ・・・。中西くんは外国の色っぽい人が好きなんだ・・・。 金髪・・・。金髪かあ。私の髪は・・・って見なくても黒いよね。 「なに、俺のこと好きなの?ちょっと困るっていうか、対象外っていうか、もっと色気出してから出直してこいっていうか・・・」 「そんなわけあるか!ばーかばーか!」 「えーひどーい。傷つくー。」 「こっちの台詞だよ!予想外のところから攻められて泣きそうだよ!」 「・・・えー、えっと、だからさ。世の中にはこういう奴もいるわけでな、全員が全員を好きなわけじゃないわけだ。」 「中西じゃ全然参考にならん!」 「え、なにこれ。なんで俺がけなされてんの?ネギ蹴っていいの?」 「どうぞ。」 「ダメだよ何言ってんの!?」 ああよかった。ちゃんは中西くんが好きなわけじゃないんだ。 でも私、金髪じゃないし、色気ないし、日本人だし、中西くんとちゃんとお話できないし・・・。 ちゃんは私を可愛いって、羨ましいって言ってくれるけど、やっぱり私はちゃんになりたい。 すれ違ったら挨拶くらいしたいし、出来るならおしゃべりもしたい。それが出来るようになったら、あんな風に中西くんの笑った顔を見ることもできるのかな。 いいなあ・・・ちゃん・・・。 「覗きなんて悪趣味〜。」 「ひゃあ!」 「俺らのこと見てたでしょ?サン。」 「な、なな、中西くん!」 「驚きすぎ。そんなんだから隙だらけで狙われるんだよ。」 今の今まで考えていた人が、いきなり目の前に・・・! どうしよう、どうしよう。何を話せばいいの?私から何か言うべきなの? 「ち、違うの。偶然、ちゃんが見えたから・・・。」 「声かければよかったのに。」 「えっと、あの・・・」 「ああ、ネギがいたから?」 「・・・そ、それは・・・」 「それとも、俺がいたから?」 「!」 「お、図星。」 確かに根岸くんがいたことで、躊躇した部分はあった。 けれど、そこからも動けなかったのは、中西くんが現れたから。彼の好きなタイプなんて話をしていたから。 「さん、俺のこと避けてるでしょ?」 「え・・・」 「ていうか、男子が来ると逃げ出すのは知ってる。と一緒のときに、偶然男子と会って話し始めると、 用事があるとか言ってその場から逃げるよな。」 「・・・あ・・・」 「別にそれはいいんだけど。なんで避けて逃げ出すくせに、俺のことはわざわざ戻ってきて、遠くから覗いてるの?」 「!」 男の子が苦手なのは変わらない。 だけど、初めて会ったときから、ずっと気になってたの。 中西くんがどんな男の子なのか。どんなお話をしてるのか。どんなことで笑ってるのか。 ちゃんと仲良さそうに話している姿に、胸が痛むのを自覚しながら。 「話したいことがあるなら聞くよ?」 「っ・・・」 言葉が出てこない。 わかっているの。私が今一番まともに話せないのは、中西くん。 でも、一番話したいのも、中西くんなの。 「・・・そう。何も言わないってことは、俺の勘違いか。」 「・・・っ・・・ち、ちがうの!」 「ん?」 「・・・わたし・・・もっと・・・中西くんとお話してみたくて・・・その、ちゃんみたいに・・・」 「それは無理だと思うなー。」 ニッコリと笑いながら、痛いことをさらりと言う。 見たかった笑顔を、こんな場面で見せられるとは思わなかった。 そうか・・・そうだよね。私がちゃんみたいになるだなんて、無理だよね。 わかっていたけど・・・はっきり言われるのは、やっぱり悲しい。 「俺、あんたをと同じように見れないもん。」 「・・・。」 「あいつはネギと一緒で、からかいやすいんだけどねえ。」 「だ、だから私も同じように・・・」 「それだと男友達と同じ扱いになっちゃうじゃん。」 「・・・え・・・?」 「俺、どうしてもを女として見れないんだよね。だから、にを目指されると困るの。」 頭が混乱して、中西くんが何を言いたいのかがわからない。 私自身もどうしていいのか、何を言えばいいのかわからなくて。 ただひとつわかるのは、今目の前にいる中西くんが、すごくすごく楽しそうな表情を浮かべていること。 「・・・金髪じゃないから?」 「なんで金髪・・・ってぶは!さっきのあれか!」 「あ、ご、ごめんなさい・・・聞いちゃって・・・」 「っ・・・あれね、嘘。」 昔から他人と話すことが苦手で、自分の気持ちをうまく伝えられなくて。 誰とでも気軽に話せて、頼られる友達が羨ましかった。 可愛いと言われても、それを素直に受け入れることが出来なくて。 いつだって自己嫌悪の繰り返しだった。自分に自信を持つことなんて出来なかった。 どうして私はこうなんだろうっていつも思ってた。 逃げてばかりいる自分が嫌いだった。 それでも、自分からこんなにも近づきたいと思う人は初めてだったの。 「本当のこと、知りたい?」 踏み出せずにいた一歩。 貴方の言葉に頷くことが出来たなら、私の世界も変わるだろうか。 TOP |