!」

「!」





昨日は楽しみすぎてあまり眠れなかった。待ち合わせ場所には30分も前についてしまった。
実は今でも心臓は飛び出しそうなくらいにドキドキだ。でも、そんな風になるのも仕方ないと思うんだよね。





「うわー!天城だー!!」

「っと・・・!」





天城がドイツに発ってから随分経つ。
日本に帰ってくることなんて、年に数度しかなく今回だって数ヶ月ぶりの再会だ。
久しぶりに再会する私の好きな人。ドキドキしないわけがない。





「急に飛びつくな。危ないだろ?」

「天城、ちょっと背伸びた?」

「人の話を聞け。相変わらず危なっかしいな。」





嬉しすぎてずっと笑みのたえない私を見て天城が呆れたように笑う。
それさえも愛しくて、今更照れくさくもなったのも重なり、私は天城の胸に顔を埋めた。





「・・・なんか、僕たち邪魔だったかな?」

「〜〜〜〜!!」

「あ、風祭くん!と・・・イリオン?」

「風祭とは会ったことがあるんだったよな。イリオンは・・・前に送った写真だけか。」

「キャー!可愛いな!!風祭くんも久しぶり!」

「久しぶり、さん。」





天城が妹と風祭くんと一緒に日本に一時帰国するって話は聞いていた。
天城との再会を心待ちにしていたのも確かだけど、写真でしか見たことのなかった彼の妹に会えることも楽しみだったのだ。





「私は。ってえーとドイツ語でなんて言うの?」

「大丈夫、先に話してあるから。わかるよな、イリオン。」





天城はそう言うと、ドイツ語でイリオンに話しはじめた。
うーん。何を言っているんだかサッパリだ。英語ならまだ単語くらいは聞き取れるかなって思うんだけど。





「〜〜〜〜!!」

「・・・天城、通訳して。サッパリわからない。」

「・・・あ、あー・・・。」





写真で見てもすごい美少女で、実際会ってみたらそれ以上に可愛くて。私としてはぜひ仲良くなりたいのだけれど。
彼女が頬をふくらませて、怒った顔をして天城に何かを訴えかけている。
さらには天城がそれを通訳して私に伝えることを迷っているようにも見える。
・・・会ったばかりのはずだけれど・・・私、なんだか嫌われているように見えるのは気のせいだろうか。
私は少し考えて、彼らの横で少し楽しそうに笑みを浮かべていた風祭くんへと視線を向けた。





「風祭くん?」

「・・・ははっ。」

「え?な、何・・・?!」

「イリオン、さんにヤキモチ妬いてるんだよ。」

「・・・は・・・?」

「イリオンは天城のこと大好きだから。最初っからあんな二人を見せられて、天城が取られると思ったんじゃない?」

「・・・。」





イリオンは天城にピッタリとくっついて離れない。
今回は写真でしか見たことのないイリオンが来ると聞いて楽しみにしてたのに。
仲良くなってあわよくば可愛い妹のような存在が出来るんじゃないかって期待してたのに。
なんだか全然それどころじゃないみたいだ。

イリオンは確かまだ小学生。天城みたいなお兄ちゃんが出来て、憧れるのも慕うのもわかるけど・・・
しかし私も数ヶ月ぶりに天城と会ったのだ。イリオンとは仲良くなりたいし、相手は小学生だけど、ここは引くことはできない・・・!





「・・・ふっふっふ。」

「!」

「いい度胸してるじゃないのイリオンちゃん?
私がどれだけこの日を待ちわびていたと思ってるのかしら・・・?」

「〜〜〜?〜〜〜!」

「何言ってるのかわかんないぞー?イリオンなんて天城と毎日会ってるくせにー!羨ましいぞこの!ハイ天城!通訳して!」

「え?ええ?!」

「〜〜〜!!〜〜〜。」

「ついでにイリオンが何を言ってるのかも教えて!」

「いや、その・・・」

「もー!じゃあ風祭くん!」

「え、ええー・・・。」





おそらくイリオンも天城のことで何かを伝えようとしているんだろう。しかし天城に聞いてもさきほどから口ごもってばかりだ。
話題の当人よりは風祭くんの方が話せそうなので彼に頼むことにした。
私の言葉を風祭くんがイリオンに伝える。そして、イリオンの言葉もまた風祭くんから伝えられた。




「『お兄ちゃんを取らないで』・・・ふーん。それはこっちの台詞ですー!
電話でも天城、イリオン可愛くて仕方ないって雰囲気だしまくりなんだからね!」

「〜〜〜!!〜〜〜〜。〜〜〜〜!!」

「ちょ、ちょっと待て、二人とも落ち着け・・・!」

「風祭くん、通訳!」

「・・・『私だっていつも日本の恋人のことを聞いてた。恋人のことを話すときはいつも嬉しそうで優しい顔をしてる。』・・・だって。」

「・・・。」

「・・・。」

「そうなの?天城。」

「・・・べ、別に俺は意識してたわけじゃ・・・!」





予想外なところで、予想外な事実が聞けてなんだか嬉しくなって顔がほころぶ。




「あー、すっごい嬉しい・・・。どうしよう。」

「・・・ごめんな。」

「・・・何が?」

「寂しい思い・・・させてる。・・・いてっ。」

「謝る必要もないし、そんな悲しそうな顔する必要もないよ。」

「・・・。」

「天城がドイツに行くって決めたとき、私言ったでしょう?いつでも天城の応援してるって。」

「・・・。」

「そりゃ寂しくないって言ったら嘘になるけど。さっきみたいに思い出してくれて、私のこと好きでいてくれるなら大丈夫。」

「・・・ああ。」





風祭くんとイリオンもいるというのに、一瞬その存在を忘れてしまった。
まあ最初に天城には抱きついてるし今更か。なんてことを考えつつ、二人の方へ振り向くと
風祭くんがイリオンに何かを話していた。イリオンはそれを不満そうに聞きながら、私をにらみつけた。

そして私の傍に歩いてきて、下から服を引っ張る。





「〜〜〜?」

「・・・ゴメン、何言ってるのかわかんない。風祭くん、通や・・・あたっ。」

「〜〜。〜〜〜。」

「・・・イリオン?」

「〜〜〜!」





最後に何かを言って、小さな力で天城の方へと突き飛ばされた。
それほど大きな力じゃなかったけれど、少しふらついて私はそのまま天城に支えられる。





「『ちゃんと返して。』だって。」

「ちゃんとって・・・え?」

「あ、イリオンちょっと待って!・・・と、それじゃあ僕はイリオンと一緒にいるから。後でまた集合しよう。」





風祭くんがイリオンに何を言ったのかも、イリオンが私に何を伝えようとしたのかもわからなかった。
だけど、私を天城の方へ突き飛ばして「ちゃんと返して」ってことは。
・・・仲良く見えただけでつっかかってくるほど天城のこと大好きなくせに。





「天城、教えて!」

「え?」

「ドイツ語!」




歩き出し、この場から離れようとしているイリオンの名を呼んだ。
イリオンがまだ不満そうな顔のままで振り返った。





ダ、ダンケ!」

「・・・。」

「あ、あれ、やっぱり発音おかしかった?もう一回言った方がいいかな天城?!」





慌てる私に天城が笑いながら、イリオンと風祭くんの方を指差す。
イリオンが風祭くんに何かを聞いてる。私は疑問の表情を浮かべつつ、彼らが話し終わるのを待った。





「・・・ドウイタシマシテ!」





その言葉を聞いて目を丸くして彼女を見ていると、イリオンは顔を真っ赤にしてすぐに前を向いて歩いていってしまった。
風祭くんが優しく笑いながらイリオンの後を追う。
唖然とした表情のまま天城の方へと振り向くと、天城はまた笑って。「よかったな」と言って私の頭を撫でた。





「可愛い妹だね。」

「ああ、自慢の妹だ。」

「・・・照れがなさすぎ。」

「ん?何か言ったか?」

「なんにも!」





イリオンの後ろ姿を見つめつつ、自然と笑みが浮かんでいた。
やっぱり天城が自慢するだけある。天城のことが大好きで、取られたくなかっただけで、きっといい子なんだ。





「・・・私もドイツ語覚えようかな。」

「どうした、いきなり。」

「天城がイリオンに私のことどう話してるのか聞きたいし。」

「・・・っ・・・別にたいしたことは言ってないからな?!」

「それはちゃんと聞けばわかりますー。」





それに天城が大好きな者同士、きっとお互い知らない天城のことでたくさん話せるかもしれないし。
時々共感して、時々ケンカして、時々笑いあって。二人でしか出来ない話もして。それって最高じゃない?





それから私は少しずつドイツ語の勉強をはじめる。そしてイリオンも天城に教わりながら日本語を覚えはじめ、
次の会ったときの初めの挨拶が、私はドイツ語、イリオンは日本語になってお互い驚くことになるのはそれから数ヵ月後の話。





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ダンケ(Danke)・・・ドイツ語で『ありがとう』