「あのさ、結人。」

「んー?」

「ずっと思ってたんだけど。」

「何?」









「赤い糸で繋がれてると思わない?私たち。」

「ぶはっ・・・!!」











ずっと同じクラスで、ずっと同じような成績で、何故かずっと同じ委員。
ずっと続く腐れ縁の女友達の言葉に、俺は飲みかけていたポカリを豪快に吹き出した。

















赤い糸から紡ぎだす
















「思うんだけどさ。」

「・・・何を?」

「結人って誰かと付き合っても結構すぐに別れるじゃない?」

「お前、気を遣うって言葉知ってる?」

「何を今更。結人に気遣ってどうすんの。」

「まー、そうだけどさー。」





給食を終えて、午後の授業が始まる直前。
席の近い友達と窓の外を眺めながら、まったりと話すのはいつものこと。
小学校の頃からずっと同じクラスのその友達は、今日もいつもと変わることなく俺に話しかける。





「それはつまり、皆結人に理想ばっかり持っちゃって、いざ付き合うとあれ、違う?とか思うからなわけですよ。」

「何かそれひどくね?」

「そう、ひどいのよ。皆、結人の外見にだまされてるんだよね!」

「ていうか一番ひどいのはお前だよな?!」

「その点私は結人の社交的に見せかけて黒い部分も我侭なところも知ってるから幻滅もしない!お買い得だと思うわけですよ!」





俺を褒めてるんだか、けなしてるんだか。(つーか、けなしてるよな、これ)
好きなんだか嫌いなんだか、掴みどころのない話を続ける女。
彼女・・・は小学校の頃から何かと縁があって一緒にいる機会も多い、気心の知れた友達の一人だ。



そう、最近までは。





「あのさー。俺はのこと友達としか見れないって言ってんじゃん。そんなアピールされても困るだけなんだけど。」

「おだまり!好きなものは好きなんだから仕方ないでしょ?!」





少し前、突然に告白された。
あまりにも長い付き合いで、女っていうよりはむしろ男友達のような形で続いてきた関係。
一緒にいると楽だし楽しいとも思うけど、それが彼氏彼女ってなると話は別だ。

ずっと友達と思ってきてて、これからもそれは変わらないのだと思っていたのに。
その考えをいきなり変えようったって、変えられるわけもない。
俺はいつもの調子で明るく、軽く、丁重にお断りした。
それを聞いた彼女は泣くでもなく、俺から離れるでもなく、ましてや気まずくなるでもなく。
むしろそれをきっかけに、今まで以上に俺の傍へとやってくるようになった。





「まあ私も最初はそうだった!結人を好きになるとか考えられなかったもん。
でもいつの間にか結人のこと好きになっちゃってたわけで。だから結人も私と同じ気持ちの変化があってもいいと思わない?」

「いやー。思わないなー。」

「空気読めないな結人は!そこはロマンチックに『そうかもね。』とか格好つけて言ってみなよ!」

「だってって俺の好みとは違うんだもん。むしろならその辺充分にわかってんだろ?」

「好み好みって、結人の好みって可愛い子でしょ?外見じゃん。」

「健全な男子中学生が見た目で好みを決めて何が悪い。」

「うわ!ひどい今の発言!結人のことを好きな一般女子を敵にまわしました!」





出会ったときから気が合う奴だと思った理由は、の性格にあったんだと思う。
なんていうか、には女子特有の雰囲気がないんだよな。さっぱりしてるというか。
だから早い段階で本当の自分を見せるようになってたし、普段他の女子には話せないような話もしてる。
それはやっぱり、特別だったと言うよりは女として見てなかったからできたことであって。

なおさらを女として見るなんてこと、難しいと思うんだよな。





「結人は路線変更するべきだと思う。」

「は?」

「そろそろ見た目の時代は終わりだよ。付き合いの長くなる彼女が欲しくない?」

「・・・自分となら長く付き合えるって言ってる?」

「だってさ、考えてもみてよ。小学校からずっと同じクラスで、何でか委員会も一緒でさ。
席替えだってくじびきなのに大体席が近くなるんだよ?これって結構すごいことだよね?」

「そうですかねー。」

「そうですよー!それでこれだけずっと一緒にいても飽きないんだよ?
私もこんなに気の合う人なんて初めてだし。これはあれだね。運命だ!」

「また赤い糸とか言うなよ?!マジでひくから!」

「いいじゃん赤い糸!ロマンチック!」

「いつからロマンチック大好きになったんだよお前!」

「そりゃあ結人に恋心を「いや、いいよ。もういい。」」

「ああもう!そこで止めるかな!」





に告白されてからはずっとこの調子だ。
俺が何を言っても引かないし落ち込むところも見せないから、むしろこの状況を楽しんでるんじゃないかとすら思える。

が俺を好きだと言っても、結局はほとんど何も変わらない。
変わったことといえば、が今まで以上に俺の傍に来るようになったことと
その度にこっちが恥ずかしくなるような告白をくれることだけ。

が傍にいて困ることはないし(むしろ退屈してない気がする)告白も軽く受け流してる。
だからといって気まずくなるわけでもなく、は普段通りだから俺たちの関係も変わらない。
結局困ることなんて何もない。変わるものなんてなかった。















それからしばらくして、俺はとは違う別の子から告白される。
学年1、2番を争うくらいの可愛い子。俺は迷うことなくそれを受け入れた。
その時のことが頭をよぎらなかったわけじゃないけど、に告白されてからだって結局変化はなかった俺たちの関係。
たとえば俺が誰かと付き合いだしたって変わることはないと思った。今までだってそうだったんだから。





「結人くん、一緒に帰ろう!」

「おう!ちょっと待ってて!」





彼女が出来てから日常が少しだけ変わる。
今まで一緒にいたと話す時間が減ったこと。

彼女が出来たその日に、にそのことを話した。今までの態度が変わらなかったとはいえ、一応告白された身だし。
俺が告白を何度断ってもかわしても、決して落ち込むことはなかった
でも今回ばかりはちょっと傷ついた表情を見せるのかもしれないなんて思いながらも、自分に彼女が出来たことを告げた。

けれど。





『結局可愛い子か。成長しないなあ結人は。』





いつもの調子でそんなことを言った。なんだ、やっぱり何も変わらない。
あれだけ毎日のように俺を好きだ好きだって言いながら反応それだけかよ、なんてちょっとだけ脱力して
俺は心置きなく告白してきた子と付き合うことにした。





「結人くんと付き合えるなんて嬉しいな!」

「マジで?俺も俺も。」





誰もが羨む可愛い彼女との、楽しい日々。





「結人、この映画ね。すごい面白いんだって!」

「あ、そうなんだ。じゃあ今度見に行こうぜ!」





映画行ったり、カラオケ行ったり、何度もデートを繰り返す。





「・・・結人?何ボーっとしてるの?」

「え、俺ボーっとしてた?悪い悪い!」





彼女がいる、楽しい毎日。

なのに日が経つごとに何かが胸につっかえて、モヤモヤとして落ち着かない。
彼女といる毎日は楽しい。楽しいはずの毎日なのに。
彼女がいるといないじゃ大きな違いで、楽しくないだなんて思うはずがないのに。

頭に浮かんでいたのは、最近話す機会が少なくなった女友達。
女特有の雰囲気とか持ってなくて、むしろ男友達みたいで、結構何でも話し合えてた奴。
突然俺に告白してきて、自分がお買い得だとか、赤い糸がどうだとか言っちゃうおかしな奴。
男友達みたいだけどそれでもその友達も女で。ましてや俺のことを好きだと宣言してる。
俺に彼女が出来たなら、話す機会が少なくなることだって当たり前で。そんなの、わかっていたはずだ。





なのに、





なのに、なんか俺、おかしい。







「どうかしたの?」

「ん?別に?」






俺、こんなに可愛い彼女との毎日に物足りなさを感じてる。
と話す時間が少なくなっていくことに寂しさを感じてる。






「ねえねえ結人。次の日曜出かけようよ。」

「え、わり!日曜はユース!」

「・・・またサッカー?なんかサッカーばっかりじゃん。たまには私のこと考えてくれても良くない?」





付き合い始めてそれなりの時間が経つと出てくる、彼女の我侭。
俺が付き合ってた彼女と別れる一番多い理由。
そんな彼女の我侭も、だったらどうだろうだなんて無意識に比べていて。





「私もこんなに気の合う人なんて初めてだし。これはあれだね。運命だ!」





どんな理由であっても、どんな関係であっても、飽きることなく一緒にいる。女の中できっと俺のことを一番理解してるのはだ。
友達は多いけど、本当に気を許せる友達はほんのわずかで。気を許せる友達以外は結構どうでもいいとか思ってる。
優しいとかノリがいいとかよく言われるけど、結局は表面だけで。面倒くさくなれば、理由をつけては逃げている。
女子と付き合う条件は外見がよければとりあえずいい、とか思ってるし。
だけど、その彼女に束縛されるのは嫌い。我侭も嫌い。サッカーのことをとやかく言われるのもイラつく。



はそれを全部知ってる。
知っててそれでも俺が好きだって、そう言っていたんだ。
そんなこと改めて考えるまでもなくわかっていたのに。わかっていたはずだったのに。
なのに、初めてそれに気づいたかのように心が晴れて。



あまりにも一緒にいすぎて、隣にいることがあまりにも自然すぎて気づかなかった。
今まで以上に傍にいるに、居心地の良さを感じていたこと。
好みじゃないはずだとありえないと突っぱねて、考えることさえしなかったその感情の意味も。


















教室に戻って、の姿を探したがどこにも見当たらない。
廊下に出て少し歩くと窓から一人、外の景色を眺めているを見つけた。





「・・・はあ。」





声をかけようと彼女に近づくと、なんだかすごい大きなため息が聞こえた。
窓の外のどこを見ているのかわからない視線。何やら物思いにふけっているようだ。





。」

「・・・うわ!結人!!」





後ろから軽く声をかけると、予想以上に驚くの姿。





「何だよ、そんなに驚いちゃって!俺のことでも考えてた?」

「・・・ええ?!い、いやいや、まさか、そ、そんなこと!」

「あはは!どもりすぎだって!何だよ、窓の外見てため息なんて、乙女チックだなー。」

「あはは!乙女なこと考えてたからね!」






隠しきれていないこの慌てよう。は昔から不意打ちに弱い。
今、が乙女なことって言ってるのは俺のことだって自惚れてもいいんだよな。

告白されても、日常が変わることはなかった。告白を断り続けても、気まずい雰囲気になることだってなかった。
俺に彼女が出来たって話をしたとき、いつもと変わらない返事をした
あれだけ好きだって言っときながら、結局は面白がってただけかだなんて脱力した。
だけどそのおかげで、俺は何の気苦労もなかった。ではない別の子と付き合うことに罪悪感だって感じなかった。

何も変わらなかったんじゃない。
は俺が自分のことで気に病むことのないように、負担にならないようにしていただけ。
自分がつらくても、それを見せないようにしていただけ。
だから普段何も変わらないように見せて、こんなところで一人でため息をついてる。
誰にも気づかれないように、そして今ももういつも通りだとでも言うように笑って俺と話してる。

霧が晴れたようにスッキリとした心は、今まで見えていなかったものを次々俺に気づかせていく。



・・・俺ってやっぱすごい嫌な奴かも。
の気持ちに気づかなくて悪いことしたとか思うよりも強く、別の感情が沸きあがってる。
あんなに好きだ好きだって言われてたのに、今初めて告白されたみたいに心臓の鼓動が速くなる。
の言葉が、行動が、そしてその意味に気づけたことが、









なんか、すごい嬉しい。













「つーか結人はこんなとこで何やってんの?」

「彼女と別れた。」

「・・・は?え?そうなの?!何、今度は何で?!」

「路線変更しようと思って。」





俺の言葉の意味に、は気づかない。
疑問を浮かべた表情で、俺を見つめた。

は全然俺のタイプじゃない。皆が羨むような可愛い顔をしてるわけじゃないし。
むしろその辺に埋もれてるような、普通の子。
付き合うとか、好きになるとか、そんな対象になんてなるはずもないと思ってた。
このまま男友達みたいな関係で続くと思ってたし、それが一番楽しいんだって思ってた。



だけど。



俺が何言ってもめげないで、何度でもぶつかってくるところとか。

俺の性格をわかってて、それでも好きだって言ってくれるところとか。

俺に余計な気を遣わせないように、一人でため息をついてたところとか。



何だか全てがくすぐったくて。
モヤモヤするってよりは、何だかあったかいものに包まれるような、そんな感じ。

対象になるとかならないとか、そんなこと関係なくて。
一緒にいて楽しいとか、傍にいてほしいって思える。
それだけで充分なんじゃないかって。





「見た目の時代は終わりって奴?」

「・・・!」





俺は笑いながら、彼女の手を握った。
目を丸くしながら、信じられないとでも言うように俺の顔と握られた手を交互に見る。





「ど、どうしちゃったの?!結人の好きな可愛い子は他にたくさんいるよ?!」

「何だよお前、俺が好きだって言ってたくせに!嬉しくないのかよー!」

「いや、嬉しいですよ!嬉しいですけども!何の心境の変化?!」

「自分でそこまで言っちゃう辺り笑えるんだけど。だって、仕方ないじゃん?」

「何が・・・?」








疑問の表情を向ける彼女に、俺は小さく笑う。
俺の好みも性格も熟知しているが、突然の俺の心境の変化に驚くのは当然なわけで。
だから、彼女が俺に言った最初の告白の言葉を借りて。









「赤い糸、繋がってるんだろ?」









・・・なんて。
うわ!言ってみたはいいけどマジで恥ずかしすぎる!!
だけどはロマンチックで乙女チックらしいから、こんな台詞だってありだろ?





「うわ、恥ずかしっ・・・!」

「お前が言ったんだろお前が!!」





その言葉の恥ずかしさなんだか、告白の恥ずかしさなんだか。
お互いの手を握りしめている照れくささなのか。もう何が原因なんだかわからないけれど。
俺らはお互い顔を真っ赤にさせながらも、握った手はそのままにいつも通りに話を始めた。



そしてまた、いつも通りの日常が始まる。





今までと少しだけ違うことは、が俺を好きだっていうこと。





そして、もうひとつ。










俺も、彼女が好きだっていうこと。











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