「悪かったな、こんな大事になるとは・・・」
「びっくりしました。なんでここまでして私を・・・」
「いや、あれは従者が・・・って言い訳だよな。悪い。」
「そんな・・・汐らしくされたら、調子狂っちゃいますね。」
シンデレラを迎えにきたのは、舞踏会で出会った、ピンクの服を身にまとった照れ屋な王子でした。
彼はあのときと同じように、王族にも関わらず、まるで友達に話すようにシンデレラに接します。
「・・・まあ、その、私も靴の持ち主だったのに、知らないフリをしてしまったし・・・ごめんなさい。」
「そういえば何故すぐに名乗り出なかったんだ?そんなに俺のこと・・・」
「違う!違います!私が怖かったのはあの従者さんで・・・王子のことはむしろ好きです!」
「え?!」
「あー!違う!その、変な意味じゃなくてっ・・・!人間として・・・っていうか・・・」
思わず伝えてしまった本音を、シンデレラが慌てて否定すると、
王子は一瞬驚いたような表情を見せ、けれどすぐに穏やかに笑みを浮かべました。
「・・・俺も、同じなんだ。」
「え?」
「あれだけで終わりにするのは・・・勿体無くて・・・」
「・・・?」
「お前と話したあの時間は、本当にあっという間だった。」
シンデレラと顔を合わせることなく、顔を俯けて。
顔を赤らめて、言葉を選んでいるようにたどたどしく続けます。
「お前は俺の知らない世界をたくさん知ってる。もちろん、楽しいことばかりじゃないんだろうけど・・・」
「・・・。」
「それでも俺はお前と話すことが楽しくて。また、お前に会いたいと思ったんだ。」
「王子・・・」
「・・・俺のこと、王子だったって知らなかったとはいえ、気兼ねなく話してくれて嬉しかった。」
王子のまっすぐな言葉に、シンデレラには自然と笑みが浮かんでいました。
ゆっくりと、一歩ずつ王子へ近づくと、俯けている顔を覗き込みます。
「王子?」
「っおわ!!なんだよいきなり!ち、近い!!」
「私も同じ気持ちだったって言ったら、喜んでくれますか?」
「・・・え?」
「あの従者さんは怖かったけど、私も王子と一緒にいる時間はすごく楽しかったんです。」
驚いて後ずさろうとしていた王子の足が止まります。
代わりに、今度は顔をあげてシンデレラをまっすぐに見つめます。
「少しお金持ちなだけの町娘と王子の接点なんて、もうないんだって。
ガラスの靴の持ち主が私だとわかっても、無理やり后候補になるだなんて嫌だって思ってた。」
「・・・そんなことっ・・・」
「だけど、違いましたね。」
そしてシンデレラは、そんな王子に応えるようにまっすぐに彼を見つめ返し、
「見つけてくれて、ありがとう。」
もう一度、本当に嬉しそうに、笑顔を浮かべるのでした。
「・・・っ・・・あ、あのな!」
「はい?」
「お前、俺の后候補にさせられるとか言ってたけど、それはきっと無くなる。」
「そうなんですか?」
「俺は城から出て行こうと思ってるから。」
「え?!」
「新しく王になるのは兄・・・もう一人の王子だ。
もちろん・・・弟の俺に仕事が無くなるわけじゃないけど・・・」
「・・・。」
「でも、俺は・・・誰かの後ろに隠れて行動するんじゃなく、自分で出来ることを探したいんだ。」
二人が立つ丘に優しい風が吹きます。
揺れる王子の髪と彼の真剣な表情を、シンデレラはずっと見つめていました。
「・・・今ある地位を捨てるなんて、バカらしいと思うか?」
「・・・バカらしいですね。」
「・・・っ・・・」
「でも、個人的には好きです。」
「え?」
「そもそも、なんて言われたって、王子の考えは変わらないんでしょう?
たくさん悩んで、考えて、それでも変わらなかったものなんでしょう?」
「・・・。」
「きっと世間にはバカらしいって、無謀だって言われると思います。
だけど、私は応援する。それだけです。」
それから少しの間、王子とシンデレラの間に沈黙が流れました。
聞こえるのは木々のざわめきと、風の音だけ。
けれど、二人にはそれがとても暖かなものに感じられました。
「・・・もしも、」
「はい。」
「もしも、俺が城を・・・この町を出るときがきたら・・・」
王子はシンデレラの視線から一度、逃れるように目を逸らしたものの、すぐにまた顔を上げます。
「・・・いや、そのときになったら言う!」
先ほどの態度とはまったく違う、はっきりとした口調で、しっかりと前を見据えて。
それはまるで彼の決意のように、シンデレラに向けられた言葉でした。
「楽しみにしてます。」
王子が伝えようとした言葉を聞き返すこともせず、シンデレラはそれだけを返しました。
そうして笑顔を浮かべれば、王子もまた照れくさそうに笑いました。
それから月日が流れ、王子の一人が旅に出たとの噂が流れました。
それは家出とも修行とも遠征とも言われ、王子の隣には一人の少女がいたとも伝えられます。
様々な噂が飛びかい、真実を探すものもいましたが、たどり着くことはありませんでした。
噂が忘れ去られた頃、ある旅の商人は男女の旅人の姿を見ました。
どこかで見たことのある顔だと思いながら、思い当たった人物を浮かべた後に首を振りました。
真実を確かめる術はありません。そして確かめる必要などないと思うくらいに
幸せそうに笑う二人の姿が、そこにはあったそうです。
Fin
(一馬エンド)
お疲れさま!一馬のくせにおいしいとこ持っていきやがってー!
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