「たくっ、逃げるなんて面倒なことしてんじゃねえよ。」

「し、仕方ないじゃないですか。こっちにもいろいろと事情というものがあるんだから!」

「まあ、そもそも王子がいたずらに彼女を口説こうとしていたことが原因ですけどね。」

「おまっ・・・誰が・・・!」





シンデレラを迎えにきたのは、舞踏会で出会った、王族らしからぬ口調の王子でした。
彼はあのときと同じように、高圧的な態度でシンデレラに接します。





「あの時も言いましたけど、私は一時のお遊びの女性になる気はありません。
なぜここまでして私を探してくれたのかはわかりませんが、他をあたってください。」

「ああ?いい度胸だな。王族をここまで動かしておいて。」

「それは貴方が勝手にしたことでしょう?」

「確かに。王子じゃなければストーカー扱いされてもおかしくないですね。ああ、権力って怖い。」

「だからっ・・・!お前はもうどっか行ってろ!!」





王子は人払いをすると、ひとつ咳をして再度シンデレラへ向き直りました。





「正直、お前みたいにすぐ口答えをする女は面倒だと思う。」

「そ、そうですか・・・それならっ・・・」

「けど、嫌いではない。」

「・・・は?」





王子が伝えたいことが、シンデレラにはいまいちわかりません。
そんなシンデレラの様子など気にもせずに、王子はさらに続けます。





「知ってるか?王宮は華やかに見えて、うざったいくらいにどろどろとしてる。」

「そ、そうなんですか?」

「探ったり、探られたり。人を疑ってばかりで、嫌気が差すこともある。」

「・・・。」

「昔からその環境にいたならともかく、外からやってくるんじゃ
よっぽど図太い神経がなきゃ耐えられないだろうな。」

「そ、そうですか・・・」

「お前にはその素質があるんじゃねえ?
ほとんど初対面の、しかも王子であるこの俺に対するその態度とかな。」





煌びやかで、華やかに見える王宮。
その内情を話す王子は、どこか諦めているようで、遠くを見ているようで。
シンデレラは自分には知る由もない、深い何かがあるのだろうと思いました。





「それって私が図太い神経だって言いたいんですか?」

「違うのか?」

「違いますよ!すごく細いです!」

「バーカ。細い神経の奴はそこで言い返したりしねえよ。」

「・・・っ・・・」





王子の態度は相変わらず高圧的で、まるで人を馬鹿にしているように喋ります。
けれどシンデレラは不思議と嫌な感じはしませんでした。





「と、いうことで。お前を嫁候補にしてやる。」

「なっ・・・!」

「反論は認めない。俺を誰だと思ってる?」





なんて自分勝手な意見だろう、とそう思う気持ちもありましたが、
それよりも先にひとつの疑問が浮かびました。





「・・・なんで、あんな少しの時間で私を・・・?」

「気まぐれだ。」

「気まぐれなんかで嫁候補になんてなれません。いくら王子でも嫌なものは嫌だと言います。」

「・・・チッ・・・」





あのたくさんの女性の中で、自分を選んだ理由。
それを答えてくれない王子に、シンデレラも引くことはありません。
王子は頭をかきながら、ひとつため息をつくと口を開きました。





「・・・気にいったんだよ。」

「・・・え?」

「かしこまらないその喋り方も、物をはっきり言うところも、単純ですぐだまされるアホなところも。」

「な、それ、褒めてるんですか?!」

「ついでに言えば見た目も割と好みだ。文句あるか。」

「っ・・・」





王子のまっすぐで正直な言葉に、シンデレラは言葉を失いました。
そんなシンデレラに、お互いの顔が触れそうな位置まで近づき、王子は囁きます。




「遊びじゃないのなら、お前は俺を受け入れるんだろ?」





そのときシンデレラの脳裏に浮かんだのは、舞踏会のときの王子の姿。





「遊びは嫌だって言っただけじゃないですか。ど、どういう捕らえ方してるんですかっ・・・!」

「つまりそういう意味だろ?」

「誰もそんなこと言ってませんし!」

「ああ?何の不満がある?王子だぞ?!お前もなんでか貧しい生活で家族にこき使われてるって聞いた。
俺が目をかけてやるなら、感謝されてもいいくらいだと思ったけどな。」

「べ、別にそんな理由で感謝なんかっ・・・」




サンドリヨンがいなくなり、心細くなっていたときにかけてくれた声。





「・・・でも・・・」

「?」





確かにきっかけは、ただの暇つぶしや女避けだったのかもしれないけれど。








「舞踏会のとき・・・声をかけてくれたこと。助けてくれたこと・・・。
それは・・・嬉しかったし、感謝も・・・してます。」







そう、シンデレラは嬉しかったのです。





「ほーう。」

「・・・な、なんですか?!」

「たまには素直になれるんじゃねえか。」

「別に私は・・・!」

「面白い。これからお前がどんな風に変わっていくか、ますます興味が沸いてきた。」

「な、なんですか興味って・・・!」

「これ以上の問答は無意味だな。」

「は・・・?」





王子はシンデレラを見て、意地の悪い笑みを浮かべました。





「お前がなんと言おうが、結果は決まってる。」

「っ・・・」





王子の言葉に、何も言葉が紡げなかったシンデレラ。
肯定も否定もしなかった言葉の裏に、どんな言葉を飲み込んだのでしょうか。



それを知るのは、本人以外にただ一人。



彼女の表情を目の前で見ていた王子だけ。





Fin

(三上エンド)




お疲れー!終わりよければすべてヨシ!